稀勢の里が、優勝。 千秋楽を前に、あれほど渇望した優勝を稀勢の里が掴んだことを知った時、最初に胸に押し寄せたのは、戸惑いだった。夢なのか、現実なのか。そういう類のことではない。嬉しいとか、涙が出るとか、劇的に感情が揺さぶられるかと思いきや、驚くほど冷静だった。恐らく感情を超える出来事だったのだと思う。冷静に戸惑う自分が居たのだ。 いち早くこの現実を整理したくて、稀勢の里の優勝に向き合いたくて、私は仕事を終わらせた。大江戸線に乗り、森下で間違えて降りて再度大江戸線に乗り直し、最寄り駅で降りて、夕飯を食べて、サタデースポーツを観る。 会心の相撲ではなかったが、急がずに逸ノ城の急所を攻めて勝利を収め、白鵬が貴ノ岩を相手に何もできずに敗れる。戸惑いが晴れて、稀勢の里の優勝という大事件を受け止める準備が出来た。まるで麻酔が切れた時のように、感情が押し寄せながら感想も頭を駆け巡った。その時私は、思った