1970年代半ば、フィリップ・ギングリッチは図らずもこの謎に取り組むことになった。博士号を取得した彼は、始新世(ししんせい)(約5500万〜約3800万年前)の研究をしていた。恐竜絶滅から1000万年がたって哺乳動物が爆発的に増えた時代だ。75年、アジアから北米への哺乳動物の移動を追跡しようと、パキスタンへ渡り、始新世中期の地層を調査し始める。しかし、調べてみると、5000万年前のその場所は陸地ではなくテチス海東端の海底だったことが判明し、ギングリッチは落胆した。その後、77年に動物の骨盤の化石が出土したが、発掘チームは「歩くクジラ」の骨ではないかと冗談を飛ばした。当時、クジラの化石と言えば、現生のクジラと同様に、大きな尾びれをもち、水中で音を聞く高度な構造を備えているとされていた。むろん、後肢などないと考えられていたのだ。 その2年後、発掘チームのメンバーがパキスタンで頭骨の化石を発見し