昔のことを思い出そうにも、あまり景色の記憶がない。 どんな家に住んでいたかとか、どんな土地にいただとか、そういう記憶はずっとあとになってから始まっている。 身の回りの二、三歩のことで精一杯だったのだ。 コリンナおばさんは別に悪い人……いやまあ、悪い人寄りだったけど。 しょっちゅう殴られたし。 でも、どうも自分は不安定な身の上らしい、ということは子供心にも理解できていた。 そんな中受け入れてくれて、十分なご飯と寝床をくれたんだから贅沢を言うつもりもない。 教会に行けば本も置いてあった。物語はたくさん。百科事典(ブリテンニカ)は全二百巻。やりようによってはいくらでも退屈は誤魔化せた。 押し付けられた家事の手伝いも使用人の訓練も、コツを掴めば殴られることはほどんどなくなっていた。 簡単な話である。 迷惑をかけないこと。 目立たないこと。 そしてできれば、役に立つこと。 執事だったり召使いだったり