このたび、ドイツの若き哲学者マルクス・ガブリエルを一躍有名にした著作『なぜ世界は存在しないのか』の翻訳が講談社選書メチエから刊行された。同書でガブリエルは、「新しい実在論」という立場を主張している。 私はこれまでカンタン・メイヤスーやグレアム・ハーマンらの「思弁的実在論」を紹介してきたが、ガブリエルの立場もそれに関係する。今日の大陸哲学では、「実在論ブーム」が広く巻き起こっているのである。 ガブリエルの「新しい実在論」とは、いかなるものなのか。ひとまず、「世界は存在しない」というキャッチーな主張は脇に置くことにする。それは実は、二次的なことだからだ。私の整理では、ガブリエルの言わんとすることの本体は、「本質主義vs.相対主義」という対立から抜け出す第三の道を開くことである。 「世界は存在しない」とは? 本質主義vs.相対主義というのは、極端に単純化すれば、次のような対立だ。 富士山を、別の