「私」とは何者か――自分を探したければ、自分に似せたアンドロイドを作ればよい。 意表をつく提案だ。著者は、外見を緻密に模倣したロボットを製作することで有名である。自分と瓜(うり)ふたつのロボットを作り、その過程で感じた経験を、本書でエッセイ風に綴(つづ)っている。 精巧なアンドロイドと向かい合えば、自分自身と会話をしているような錯覚が生じる。自分のことを一番理解してくれているはずの自分自身からカウンセリングを受けることができるから、精神医学的にも有効性が期待される。 さて、心は容易に物体に憑依(ひょうい)する。身体の境界は曖昧だ。アンドロイドを遠隔操縦すると、ロボットに乗り移った感覚がする。実際、アンドロイドを他人に放置されると寂しさを覚え、その機械仕掛けの「中身」が人目に晒(さら)されると裸体さながらの恥ずかしさを感じる。となれば、どちらが本当の自分だろう。アンドロイドは常に姿勢はよいし