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ブックマーク / realsound.jp (62)

  • 話が飛ぶ人は体内に複数の時間が流れているーーADHD当事者の作家が描くエッセイ『あらゆることは今起こる』

    小学校1年生のときの教室。クラスメイトたちの当たり前を、自分だけがさっぱり理解できず、それを周囲には悟られないように平静を装いながら、内心はげしく動揺している。もしかしたら自分は気づかないうちに、どこかに存在する「並行世界」に迷い込んだのかもしれない。そう思うと、次第に怖くなってくる。 小説家・柴崎友香の『あらゆることは今起こる』は、そんな「小説の始まり」のようなエピソードから始まる。でも、これは「小説」ではない。2021年9月にADHD(「注意欠如多動症」)の診断を受けたという柴崎が書き下ろした、発達障害をめぐるエッセイだ。医学書院の「ケアをひらく」シリーズに収められているのだが、そのコンセプトにたがわず、ひじょうに平易な言葉遣いで、発達障害の特性を知ることができる。著者自身が発達障害についての考えを深める過程と並行して書かれていて、ADHDという言葉を耳にしたことはあっても、充分に考え

    話が飛ぶ人は体内に複数の時間が流れているーーADHD当事者の作家が描くエッセイ『あらゆることは今起こる』
  • 『ゴジラxコング』はアメリカンプロレスの怪獣版だ! 言葉を喋らないのに理解できる驚き

    オレの名前はキングコング。デカい猿の怪獣だ。地底世界の戸亜留地区で暮らしてるが、オレには同族の仲間がいねー。人間は嫌いじゃねーけど、種族が違う。ゴジラ? あんな凶暴だけのヤロー、仲間じゃねーよ(ここで「あ?」とキレるゴジラの小さいコマ)。 で、仲間を探す旅をしてたんだけどよ……仲間どころか、スカーキングっていうクソ野郎と出会っちまった。弱いもんイジメばっかして、地上も支配したいだと? なめてんじゃねーぞ! (格闘シーン/コングがスカーを相手に格上感を出す) キングコング「キングって名乗るわりにゃ、大したことねーな。オレが知ってる地上のキングは、テメーの100倍は強いぜ」 スカーキング「くっ……くくく、なんでテメーとタイマン張らなきゃなんねーんだよ! おい、シーモを呼んでこい!」 キングコング「なっ、こいつは……!?」 こうした髙橋ヒロシ的なやり取りの末に、コングはスカーキングとシーモの二大

    『ゴジラxコング』はアメリカンプロレスの怪獣版だ! 言葉を喋らないのに理解できる驚き
  • 『風の谷のナウシカ』庵野秀明、なかむらたかし、金田伊功……超人気アニメーターを起用した宮崎駿はどう“制御”した?

    『風の谷のナウシカ』庵野秀明、なかむらたかし、金田伊功……超人気アニメーターを起用した宮崎駿はどう“制御”した? ※稿は映画『風の谷のナウシカ』(宮崎駿監督)のネタバレを含みます。同作を未見の方はご注意ください。(筆者) いよいよ7月14日(金)に公開される、宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』。その公開を記念して、「金曜ロードショー」(日テレビ系)では、3週連続でスタジオジブリ作品が放送される。 第1夜となる日7月7日(金)は、『風の谷のナウシカ』(1984年)が放送。そこで稿では、同作の“見どころ”を「各場面を担当した原画マンたちの個性」という観点からあらためて考えてみたいと思う。 なお、厳密にいえば、『風の谷のナウシカ』は「スタジオジブリ作品」ではなく、トップクラフトという(ジブリの前身的な)会社が制作したアニメ映画である。また、監督の名字の表記は、今回の『君たちはどう

    『風の谷のナウシカ』庵野秀明、なかむらたかし、金田伊功……超人気アニメーターを起用した宮崎駿はどう“制御”した?
  • ティモシー・シャラメはなぜ特別? 『DUNE/デューン』でも発揮した他者を輝かせる才能

    「あの少女たちと、誘われるような深い関係を知ることで、彼(ローリー)は成長することができたんだ」(ティモシー・シャラメ)(※1) 大傑作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ監督/2019年)で演じたローリーという青年のキャラクターについて、ティモシー・シャラメは、ジョー(シアーシャ・ローナン)をはじめとする女性たちからの影響の深さに触れている。また、ローリーというキャラクターが、『若草物語』の書かれた時代に一般的な男性が持っていたようなジェンダー規範から著しく外れていることに関しても、「(ローリーが)若いうちに内面の美しい女性たちに出会えたからかもしれない」と分析している(※2)。 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 今年のカンヌ国際映画祭で、ティルダ・スウィントンの肩に甘えるようにもたれかかるティモシー・シャラメの愛されぶりがフォトコール

    ティモシー・シャラメはなぜ特別? 『DUNE/デューン』でも発揮した他者を輝かせる才能
  • カウンターカルチャー神話が音を立てて崩れていくーー速水健朗の「『ローリング・ストーン』の時代」評

    『ローリング・ストーン』誌の創刊は、1967年。サンフランシスコのヘイト・アシュベリーで盛り上がっているヒッピーやマリファナやLSD、そして、その街のロックミュージック。その文化に近い場所にいた若きヤン・ウェナーは、新しい世代に向けたメディアの創刊を思いつく。 グレートフル・デッドやジェファーソン・エアプレーンといった地元のロックバンド、そのシーンやボブ・ディラン、ローリングストーンズなど、60年代のロックシーン話は、いくつも登場しているが、書にとって前段に過ぎない。むしろ、メインとして掘り下げるのは、『ローリング・ストーン』誌の創刊編集長ヤン・ウェナーの人間そのものだ。1967年の時点では、シリアスな"ロック批評"も、雑誌の役割のひとつだったが、編集方針は瞬く間に変わっていく。 音楽と広告が交差するメディアとしての確立も、比較的早い段階のこと。インタビューの次のページに見開きでレコード

    カウンターカルチャー神話が音を立てて崩れていくーー速水健朗の「『ローリング・ストーン』の時代」評
    synonymous
    synonymous 2022/07/05
    むっちゃ高い本だった
  • 鬼畜ジジィの償いデスマッチ98分一本勝負! 『ドント・ブリーズ2』はアクションの快作

    鬼畜ジジィの償いデスマッチ98分一勝負……かくれんぼサイコホラーだった『ドント・ブリーズ』(2016年)の続編『ドント・ブリーズ2』(2021年)は、まさかのヴァイオレンス・アクション映画に仕上がっている。 まずは、すべての始まりである前作のあらすじを紹介しよう。荒廃した町・デトロイト。盲目の老人(スティーヴン・ラング)の家に泥棒に入った若者たち。しかし盲目の老人は元ネイビーシールズの戦いのプロで、さらに擁護不可能な鬼畜行為をやっている怪人だった。かくして老人の手によって、若者たちは1人また1人と殺されてゆき、最後は何となく続編が出来そうな空気で終わる。 『ドント・ブリーズ』(c)2016 Blind Man Productions, LLC. All Rights Reserved. そして作では、あの若者たちとの攻防から数年の月日が流れ……何とビックリ、老人はどこからか湧いて出た娘

    鬼畜ジジィの償いデスマッチ98分一本勝負! 『ドント・ブリーズ2』はアクションの快作
  • シティポップ(再)入門:寺尾聰『Reflections』 “奇跡の年”に生まれた名実ともにシティポップの頂点

    国内で生まれた“シティポップ”と呼ばれる音楽が世界的に注目を集めるようになって久しい。それぞれの作品が評価されたり、認知されるまでの過程は千差万別だ。特に楽曲単位で言えば、カバーバージョンが大量に生まれミーム化するといったインターネットカルチャー特有の広がり方で再評価されるケースが次々登場している。オリジナル作品にたどり着かずとも曲を楽しむことが可能となったことで、それらがどのようなバックボーンを持ち、どのようにして世に生み出されたのかといった情報があまり知られていない場合も少なくない。 そこで、リアルサウンドではライター栗斉氏による連載『シティポップ(再)入門』をスタートした。当時の状況を紐解きつつ、それぞれの作品がなぜ名曲・名盤となったのかを今一度掘り下げていく企画だ。毎回1曲及びその曲が収められているアルバムを取り上げ、歴史的な事実のみならず聴きどころについても丁寧にレビュー。

    シティポップ(再)入門:寺尾聰『Reflections』 “奇跡の年”に生まれた名実ともにシティポップの頂点
  • 安野モヨコがいなければ『シン・エヴァ』は生まれなかった? 『監督不行届』から読み解くオタク夫婦の絆

    『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の大ヒットで、総監督の庵野秀明氏に改めて注目が集まっている。3月22日にはNHK総合『プロフェッショナル 仕事の流儀』で庵野氏の密着取材番組が放送された。そこで庵野氏とともに注目を集めたのがの安野モヨコ氏の存在だった。庵野氏の特異な生活実態は、ファンの間では知られていたが、この番組での安野氏の証言を聞いて、彼女がいなかったら、今頃庵野氏は生きていなかったのではないかと思った人は多いだろう。 そんな2人の生活を綴ったコミックエッセイが『監督不行届』だ。書を読むと、庵野氏との生活は当に大変だと思わされると同時に、ものすごく刺激に満ちていて退屈とは無縁だろうと感じる。そして、庵野氏のオタクぶりもすごいが、安野モヨコ自身もかなりのオタクであり、オタク夫婦としての絆の強さが見えてくるのだ。 オタクを隠して生きていた安野モヨコ 書は、日オタク四天王の1人と言

    安野モヨコがいなければ『シン・エヴァ』は生まれなかった? 『監督不行届』から読み解くオタク夫婦の絆
  • 【ネタバレ】『エヴァ』は本当に終わったのか 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』徹底考察

    稿には、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の結末を含む内容への言及があります。 2007年からシリーズの公開が始まった、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』。その4作目にして、シリーズ最終作となったのが、タイトルを一新した『シン・エヴァンゲリオン劇場版』だ。TVアニメ版『新世紀エヴァンゲリオン』、旧劇場版を経て、再び出発したシリーズが14年の長期に渡って公開され、前作から8年と数カ月を経て最終作が公開されたというのは、異例づくめといえる出来事だ。このような新シリーズのスケジュールは、庵野秀明監督はじめ作り手側にとっても予想していなかったはずだが、それでも成立してしまうというのは、『エヴァ』全体の熱狂的な人気があってこそだ。製作が長引き延期を重ねながらも、シリーズの興行成績は落ちるどころか、右肩上がりになっていった。 さらに、公開前に発表された「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」という、最終作と

    【ネタバレ】『エヴァ』は本当に終わったのか 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』徹底考察
  • 宮台真司×黒沢清監督『スパイの妻』対談:<閉ざされ>から<開かれ>へと向かう“黒沢流”の反復

    リアルサウンド映画部にて連載中の社会学者・宮台真司による映画批評「宮台真司の月刊映画時評」。今回は特別編として、10月16日に最新作『スパイの』が公開となった黒沢清監督との対談を掲載する。以前から黒沢監督の手腕を高く評価してきた宮台が、『スパイの』を起点に、黒沢監督ならではのモチーフの反復、フィルムというモノに対するフェティシズム、作が無意識下で伝えている現代社会への痛烈なメッセージに迫る。 “黒沢流”のモチーフの反復が意味するもの 宮台真司(以下、宮台):最初に少し個人的な話をすると、僕の母方の祖父は、フランス租界にあった上海自然科学研究所の教授だったので、母の家族は租界地で暮らしていたんです。今作『スパイの』の優作とその・聡子と同じように、お手伝いが5人いるという環境で、想像を絶する大豪邸に住んでいました。母によると、母の両親であるその教授とーーつまり僕の祖父母ーーは「とに

    宮台真司×黒沢清監督『スパイの妻』対談:<閉ざされ>から<開かれ>へと向かう“黒沢流”の反復
  • 『パラサイト 半地下の家族』はポン・ジュノ監督の過去作と何が違う? 「異物=人間」が煽る不安

    「半地下」の文字通り、半分が地下に埋まった家に住むキム一家(父:ソン・ガンホ、母:チャン・ヘジン、息子:チェ・ウシク、娘:パク・ソダム)。一家には金も職もなく、内職をしてギリギリの生活を送っている。そんな一家のもとへ、ひょんなことからIT企業の社長一家での家庭教師の仕事が舞い込む。この話をキッカケに、まずは息子が、続けて娘に、さらには父に母にと、キム一家は身分を偽って次々とパク一家の懐に忍び込み、「寄生」を始めるのだが……。 物語への言及はここで止めておこう。公式にネタバレ禁止が強くアナウンスされているし、あらすじを知らない方が確実に楽しめるからだ。ゆえに今回の記事では、ポン・ジュノという稀代のストーリーテラーの作風と、作が過去作品に比べてどう違うのか、どう面白いのかを書いていきたい。 ポンさんと言えば、恐怖、暴力、哀愁、孤独といったダークなテーマをユーモラスに調理する天才である。多くの

    『パラサイト 半地下の家族』はポン・ジュノ監督の過去作と何が違う? 「異物=人間」が煽る不安
  • 絶好調続く『天気の子』 もはや避けることができない宮崎駿との比較

    天気の子』が公開2週目に入っても絶好調を維持している。先週末の土日2日間の動員は70万4000人、興収は10億1200万円。公開からわずか10日間、7月28日(日)時点で累計動員287万人、累計興収39億円を突破している。前週の当コラム(『天気の子』大ヒットスタート 万人向けだった『君の名は。』とは違う、その魅力とは?)では作品を高く評価しながらも興行面においては少々慎重な見解を述べたが、新海誠監督は今作でほぼ間違いなく、『君の名は。』から2作連続で100億円突破するという偉業を成し遂げることになるだろう。 同じ日人監督による日国内での2作連続興収100億円突破がどれだけすごいことかというと、実写映画監督を含めても前例は宮崎駿監督ただ一人だけ(『踊る大捜査線』シリーズで広克行監督も興収100億円突破を2回しているが、監督作としては連続していない)。宮崎駿監督が2作連続で興収100億

    絶好調続く『天気の子』 もはや避けることができない宮崎駿との比較
  • 『天気の子』から“人間性のゆくえ”を考える ポストヒューマン的世界観が意味するもの

    ポストヒューマンから読み解く『天気の子』の可能性 新海誠の監督第7作となる最新作『天気の子』が7月19日に、いよいよ公開されました。興行収入250億3000万円という日映画歴代2位の大記録を打ち立て、ハリウッドでのリメイクも決定し、さまざまな意味で日アニメの転換点になったとも評価された前作『君の名は。』(2016)から3年ぶりの待望の新作です。公開後の観客動員も好調なばかりか、批評的にも、すでに『君の名は。』以上の賛否両論を巻き起こしているようです。 『天気の子』は、伊豆諸島の離島から家出してきた高校生の少年・森嶋帆高(声は醍醐虎汰朗)と、天気を局地的に操る不思議な能力を持った「100%の晴れ女」天野陽菜(声は森七菜)が、異常な降雨が続くオリンピック後の東京の街で出会うボーイ・ミーツ・ガールの物語です。周りに身寄りもなく、貧しい彼らが陽菜の特殊能力を活かして晴れ間を呼び寄せるビジネスを

    『天気の子』から“人間性のゆくえ”を考える ポストヒューマン的世界観が意味するもの
  • 【ネタバレあり】『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』がヒーロー映画最先端となった理由

    マーベル・スタジオ制作の『スパイダーマン』シリーズ第2弾にして、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)映画における、“フェーズ3”と名付けられた、3段階目のシリーズ最終作に位置付けられた、作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』。 この作品が他のMCU映画と異なるのは、ヒーロー集結作品『アベンジャーズ』の最終作『アベンジャーズ/エンドゲーム』の次に公開された作品だということだ。この映画は、いままでのマーベル・スタジオ映画の顔であった、ロバート・ダウニー・Jr.やクリス・エヴァンスらが演じた第1世代のヒーローがシリーズから引退し、シリーズ全体のクライマックスとして最大のスペクタクルが展開しながら、同時に現代の正義のかたちを問う、シリアスなテーマを描き出すという内容であった。 そのような巨大な作品の後を受けた作に、同じようなテンションを求めていた観客は少なかったのではないだろう

    【ネタバレあり】『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』がヒーロー映画最先端となった理由
  • 『君の名は。』との共通点と相違点から、新海誠監督最新作『天気の子』の本質を探る

    2016年に社会現象といえる、思いがけない特大ヒットを記録した劇場アニメーションが公開された。新海誠監督の劇場長編作品『君の名は。』である。かつて一部のファンによって支持されてきた新海作品だが、この作品については広い観客に向け大規模公開され、とくに多くの若者の心をつかむ興行的成功を収めて大メジャー作品となったのだ。 熱狂は果たしてこの先も続いていくのか……? 続く新海監督の次作『天気の子』には、否応なしに熱視線が浴びせられることになった。さて、そんな期待高まる状況のなか、ついに公開された『天気の子』の内容はどうだったのだろうか。ここでは、前作『君の名は。』のヒットの理由もあわせて考察しながら、同時に作品の質を探るべく考察を進めていきたい。 まず、思った以上に前作の『君の名は。』に雰囲気が近しいというのが、第一印象だ。少なくとも表面的には姉妹作品と言っても良いくらいに、物語の語り方のみなら

    『君の名は。』との共通点と相違点から、新海誠監督最新作『天気の子』の本質を探る
  • 菊地成孔の『アベンジャーズ/エンドゲーム』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』評: <第二経済>としての<キャラクターの交換>を前に我々ができることは、<損得>だけである

    菊地成孔の『アベンジャーズ/エンドゲーム』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』評: <第二経済>としての<キャラクターの交換>を前に我々ができることは、<損得>だけである <第二経済>は 正規の経済用語であるわけがない。勿論、仮想通貨の話でもない。今や市場経済ー生活経済ー第一経済ー現実経済に並行している経済活動、キャラクターのトレーディングの事だ。 並行関係であるが故に、二者には必然的にシンクロが起こる。ウォルト・ディズニー・カンパニーは近い将来、ヒンドゥー教自体をも買収するだろう。キャラクターの宝庫だからである。それからイスラム教を買収し、最終的にはキリスト教、ユダヤ教を買収するであろう。その際に必要であらば、28世紀フォックスさえ設立するであろう。 地球上のすべてのキャラクターが一つの会社に買われ、一つのコンテンツ内に帰属する、等という、大英帝国やアレキサンダー王のような事は、第

    菊地成孔の『アベンジャーズ/エンドゲーム』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』評: <第二経済>としての<キャラクターの交換>を前に我々ができることは、<損得>だけである
  • 『天気の子』が映すエンターテインメント産業の功罪 新海誠監督が選択したラストの意図を考える

    記事は『天気の子』のネタバレを含みます。 無学なりにを読んでいると「ハレとケ」という民俗学の言葉にしばしば出会う。柳田國男によって見出された概念で、ハレとは儀式や祭の特別な日、ケとは日常を意味する、らしい。歌舞音曲、芸能は言うまでもなくハレに属するもので、つまり今日、政治や経済を動かすまでに成長したエンターテインメント産業はいわば「ハレ」が産業化された姿であるわけだ。 新海誠監督の最新作劇場アニメ映画天気の子』では、どんな天気も局地的に「ハレ」に変えることのできる少女、100%の晴れ女がヒロインとして登場する。映画は序盤に地方から家出してきた少年が東京で仕事にありつけず、あっという間に貧困化していく描写の後にヒロインを登場させ、この社会の中で彼女が瞬く間に人々から必要とされ、経済的、社会的に成功していく様子を描く。雨の中で描かれる無力な少年の貧困と、新海誠作品が得意とする、息をのむ

    『天気の子』が映すエンターテインメント産業の功罪 新海誠監督が選択したラストの意図を考える
  • 『プロメア』は大衆娯楽映画の最先端に 強烈な生のエネルギーを描くTRIGGERの手法とは

    鑑賞中、頭が沸騰した。最初から最後までクライマックスかというようなテンションで111分が嵐のように駆け抜けた。少し肌寒いくらいの空調の効いた試写室で、映画が終わった時には汗ばんでいた。 オリジナルアニメーション映画『プロメア』は、大変な熱量の大衆娯楽映画だ。個性的なキャラクターにビッグスケールのストーリーと、過剰なアクションとコミカルさがハイレベルでせめぎ合っている。制作したTRIGGER、監督の今石洋之、そして脚の中島かずきの魅力がこれでもかと言わんばかりに詰め込まれている。 稿では、TRIGGER及び、監督と脚の2人の魅力と特異性を紐解くことで、作の魅力に迫ってみたい。 『キルラキル』で瞬く間に認知されたTRIGGER TRIGGERは、GAINAX出身の3人が独立し2011年に設立された新しいアニメーションスタジオだ。だが、すでにアニメファンの間では信頼できるブランドとしての

    『プロメア』は大衆娯楽映画の最先端に 強烈な生のエネルギーを描くTRIGGERの手法とは
  • ゴジラへの暴走気味の想いが短所であり長所にも 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の美学

    ゴジラ、ラドン、モスラ、キングギドラが世界中をブッ壊しながら戦う。シンプルなお祭り映画なのに、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)は非常に難しい映画だ。アメリカの大手映画レビューサイトで批評家と観客の評価がハッキリ分かれたのも納得できる。もしもゴジラに何の興味もなければ、この映画は怪獣と狂人たちのお祭り騒ぎにしか見えないだろう。 そのうえゴジラに興味があったとしても、ある人は喝采を送るだろうし、ある人は拒否反応を示すはずだ。この映画は怪獣への想い入れが強すぎるあまり、人間側の話がビックリするほど雑になっている。私は怪獣映画の主役は怪獣だと思っているし、なんなら人間がいなくてもいいと思うが、人間を出すならちゃんと扱ってほしい。気持ちよく怪獣の破壊活動を見守れるように、ストレスのない範囲/邪魔にならない範囲で収めてほしいし、あるいは怪獣対決を盛り上げるためのモチベーションになっ

    ゴジラへの暴走気味の想いが短所であり長所にも 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の美学
  • 『ハンターキラー 潜航せよ』成功のカギはブチギレ俳優2人のキャスティング!? その頑強な魅力に迫る

    想像してみてほしい。息が詰まりそうな潜水艦の中で、あのジェラルド・バトラーがアメリカ×ロシアの全面戦争のキーマンとなり、地上ではゲイリー・オールドマンが演じるアメリカ政府の要人がロシア戦争をやるぞとキレ散らかしている状況を。この状況を実現した時点で、『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年)の成功は約束されたといえるだろう。 今の30代にとって、オールドマンは怪優の代名詞だ。悪役を演じた『レオン』(1994年)で、ベートーヴェンを語りながら一家を皆殺しにするシーンは今なお語り継がれている。片やジェラルド・バトラーといえば、『300<スリーハンドレッド>』(2007年)でスパルタ王レオニダスを演じた男。「This is Sparta !! 」とペルシア帝国からの使者を蹴り落とす快シーンで大ブレイク、以後も『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013年)、『ザ・アウトロー』(2018年)といっ

    『ハンターキラー 潜航せよ』成功のカギはブチギレ俳優2人のキャスティング!? その頑強な魅力に迫る