※本稿は、2020年9月10日に開催されたポピュリズム国際歴史比較研究会の第五回会合で報告した内容の一部である。 大串 敦(慶應義塾大学法学部教授) はじめに ウラジーミル・プーチンの個人支配に体現されるような現在のロシアの政治体制を、ポピュリズムということは可能だろうか。可能だとすればどのような意味でポピュリズムといえるのだろうか。また、その政治体制はどのように形成されてきたのか。その脆弱性はどこにあるのか。本稿では、こうした一連の問いを今後より詳細に考察するための準備として、理論的な諸問題を提出することを目的としている。なお、そうした準備稿である性格を反映して、事実関係に関する注記は最小限にとどめている。 ポピュリズムの戦略的アプローチとロシア政治 近年多用されてきた「ポピュリズム」は、数多くの政治学の概念の中でも、とりわけ多義的である[1]。とはいえ、ロシア政治を考察する目的から、こ