ブックマーク / www.webchikuma.jp (25)

  • 「滅私奉公」は内面化されたのか?|ちくま学芸文庫|松田 宏一郎|webちくま

    戦時体制を支えた陸軍将校とはいったいどういう存在だったのかを問うた『陸軍将校の教育社会史』。書の読みどころや意義について、『江戸の知識から明治の政治へ』などの著作がある、立教大学教授の松田宏一郎さんによる解説を転載します。 一 体系化されたカリキュラムに基づく知識教育と一定の実地訓練をこなさなければ就くことのできない職業を、一般に専門職(プロフェッション。その職能団体を指すこともある)と呼ぶ。だいたいは法制度や同業者による認証制度でそうなっているが、すぐに思い浮かぶのは医師や法律家である。そして、軍の将校も典型的な専門職である。専門職としての将校の登場は近代化の重要な指標の一つと見なされ、一九九〇年頃までには、アメリカやヨーロッパで、将校教育のシステムや当事者の社会的役割・立場の自己認識について、社会学・歴史学などの分野で相当の研究蓄積ができていた。これに対し日では、歴史社会学的分析対

    「滅私奉公」は内面化されたのか?|ちくま学芸文庫|松田 宏一郎|webちくま
  • 第1回 不都合な「自画像」が起こした波紋|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま(1/3)

    地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 自社の内幕を描いたドキュメンタリー『さよならテレビ』で、テレビを問い直した東海テレビ放送に迫ります。 テレビに未来はあるか──。ネット社会になって以降、何度も繰り返し問われてきた。若い世代はYouTubeなどのネット動画に流れ、NHK放送文化研究所の調査では「10代、20代の半数がほぼテレビを見ない」という。新型コロナ禍を機に、動画配信サービスの利用も急速に広がる。 この問題に切り込んだのが、愛知・岐阜・三重を放送エリアとする東海テレビ放送だ。3年前、自社を舞台とするドキュメンタリー『さよならテレビ』を放送し、昨年には映画版を公開した。そこに映し出されたテレビの現状は業界内外に波紋を呼び、

    第1回 不都合な「自画像」が起こした波紋|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま(1/3)
  • 誰からも等距離にある「女性解放」の学術書|ちくま学芸文庫|富永 京子|webちくま

    1970~80年初頭の女性解放運動や理論における対立・批判から、それが抱えた数々の困難を示した論考集、江原由美子著『増補 女性解放という思想』。社会運動について考えるうえで書がどのような意義を持つか、富永京子さんが評してくださいました。(PR誌『ちくま』6月号掲載原稿より。Web掲載に際して一部追記。) 数年前、調査会社の営業の方にこんなことを言われた経験が今でも心に残っている。「富永先生の場合、例えばフェミニズムとかジェンダー関連の調査とか……」。私は社会運動の研究者で、フェミニズムやジェンダー論は全く専門ではない。調査会社の方も深い意図はまったくなかったのだろうが、女の社会学者だから女性問題や女性運動に関心があるのだろうという想定に、自分が想像したよりも遥かに苛立った。 書は、一九八〇年代当時のエコロジカル・フェミニズムやイリイチのヴァナキュラー・ジェンダー論、「性差」論の批判的検

    誰からも等距離にある「女性解放」の学術書|ちくま学芸文庫|富永 京子|webちくま
  • ホロコーストは近代の産物か|ちくま学芸文庫|田野 大輔|webちくま

    ホロコーストを近代社会の質に深く根ざしたものとして捉えたバウマンの主著『近代とホロコースト』。書の内容が、近年の実証研究の進展によってどのように克服され、また相対化されているか、ドイツ現代史がご専門の田野大輔さんが評してくださいました。(PR誌『ちくま』5月号より転載) ホロコーストはなぜ起こったのか。600万人にもおよぶユダヤ人の大量殺戮はどうして可能になったのか。この問題に社会学の立場から取り組んだのが、ジグムント・バウマンの手になる書『近代とホロコースト』である。彼の回答はきわめて明確である。ホロコーストは近代文明の所産であり、近代官僚制の働きがなければ生じえなかったというのだ。「『最終的解決』はいかなる段階においても、効率的・効果的目的遂行という合理主義的行動とは衝突しなかった。逆に、『最終的解決』は当の合理主義精神から生じ、その精神と目的に忠実な官僚制度によって完成された

    ホロコーストは近代の産物か|ちくま学芸文庫|田野 大輔|webちくま
  • 古代、女帝は例外ではなく普遍だった|ちくま新書|義江 明子|webちくま

    古代の皇位継承は女系と男系の双方を含む「双系」的なものだった。史料と真剣に向き合い、古代王権史の流れを一望し、日の女帝像、ひいては男系の万世一系という天皇像を完全に書き換える第一人者による決定版。『女帝の古代王権史』より「序章」を公開いたします。 †女帝は例外か普遍か 現在の日の天皇は、初代神武から数えて126代目とされる。そのなかで女帝(女性の大王/天皇)は、古代に推古・皇極=斉明・持統・元明・元正・孝謙=称徳の8代6人、近世に明正・後桜町の2人で、計10代8人である。総数からみれば、ごく少数の例外ということになる。 もっとも126代のなかには、初代神武および「欠史八代」といわれる2代綏靖から9代開化までの、歴史学では実在の強く疑われる天皇も含まれている。私たちが辞典や新聞などで目にする神武以降歴代の数と名前は、実は、大正15年(1926)に確定した。政争に敗れた側や南北朝対立時期の

    古代、女帝は例外ではなく普遍だった|ちくま新書|義江 明子|webちくま
  • コロナ禍でも利用される「暮し」への祈り|筑摩選書|青柳 美帆子|webちくま

    WEBメディアの編集を通して現代の暮らしを見つめてきた青柳美帆子さんに、大塚英志著『「暮し」のファシズム』を書評していただきました。コロナ禍における「自粛」と戦時下の生活の共通点とは――。(PR誌「ちくま」2021年4月号より転載) 大塚英志の『「暮し」のファシズム』は、webちくまに緊急事態宣言下の2020年5月に掲載された特集「『ていねいな暮らし』の戦時下起源と『女文字』の男たち」をもとに、戦時下のプロパガンダによって作り上げられた「生活」をつまびらかにするスリリングなだ。 1940年代前半、戦争に突き進んでいった日は、「新体制運動」を開始。全面戦争が可能になる国家を作り上げるため、国民の生活を更新することを目指すようになった。 推し進められた戦時下プロパガンダには「男文字」と「女文字」があったと大塚は言う。戦争を知らない現代の私たちは、戦争の"前線"を直に描いたものを想起しがちだ

    コロナ禍でも利用される「暮し」への祈り|筑摩選書|青柳 美帆子|webちくま
  • 盆踊りとロードサイド・ラップ|筑摩選書|大石 始|webちくま

    PR誌『ちくま』1月号より大石始『盆踊りの戦後史』について、著者によるエッセイを転載します。 「盆踊り」と「ロードサイド・ラップ」という一見相容れないように思える2つの表現には、どんな共通項があるのか? ぜひお読みいただければ幸いです! 僕は埼玉県郊外のとある国道沿いの地域で育った。そのこともあるのか、物書きとしては「郊外の新興住宅地やロードサイドから生まれる表現」をテーマのひとつとしてきた。郊外生まれの表現者の中には、そこで育まれてきた視点や感覚がどのようにインストールされているのか。彼らの作品や発言を通して考えることが日々の仕事となっている。 三重県四日市にJEVAという少々風変わりなラッパーがいる。代表曲のひとつは、ロードサイドのショッピングモールについてラップした「イオン」。「オラが街にも出来たぜイオン」と繰り返されるショッピングモール賛歌ともいえる曲だが、ラストにはこんな一節も飛

    盆踊りとロードサイド・ラップ|筑摩選書|大石 始|webちくま
  • 「美術史」のアヴァンギャルド|ちくま学芸文庫|佐藤 道信|webちくま

    美術史研究のあり方を変えた『眼の神殿』がこのほど文庫化しました。文庫版解説として、東京藝術大学教授・佐藤道信氏が、このが最初に刊行された時の時代状況と、制度論的研究の射程についてお書きくださっています。 私は戦後の日美術史をめぐる著作のなかで、辻惟雄『奇想の系譜』(美術出版社、1970年、ちくま学芸文庫、2004年)と北澤憲昭『眼の神殿』(美術出版社、1989年)の二書は、歴史に残る二大著作だと思っている。前者は半世紀にわたってまったく色あせることなく読みつがれ、後者も30年間、近現代日の「美術」「美術史」「美術史学」の基設計図を示した名著として読み継がれている。辻先生は大学時代の私の恩師、北澤さんは同書以後研究を共にしてきた畏友中の畏友で、この二人と出会えたことは、私の研究人生で最大の幸運と幸福だった。もう一人恩人をあげるなら、私たち二人の各著書をサントリー学芸賞に選出してく

    「美術史」のアヴァンギャルド|ちくま学芸文庫|佐藤 道信|webちくま
  • 人種差別を育んだのか? キリスト教美術の闇|ちくまプリマー新書|岡田 温司|webちくま

    聖書に登場する呪われた人、迫害された人を、美術はどのように描いてきたか。二〇〇〇年に及ぶ歴史の中で培われてきた人種差別のイメージを考える一冊『西洋美術とレイシズム』より「はじめに」を公開します。 西洋美術とレイシズム――つまり人種主義あるいは人種差別――、そのあいだにいったいどんな関係があるというのだろうか。タイトルを見て、多くの読者の方が、まずそんな疑問をもたれたのではないかと思う。 ところが、二つは密接につながっている、これが小著の主張するところである。とりわけ、そのつながりがさまざまな様相を見せるのは、西洋美術の根幹をなすキリスト教美術の長い伝統においてである。三つの一神教、すなわちユダヤ教とキリスト教とイスラム教は、いずれも旧約聖書を聖典と仰ぐことで一致している。が、あえて極端な言い方をするなら、そこに語られるいくつかのエピソードを、レイシズム的に読んで絵画にしてきたのは、実のとこ

    人種差別を育んだのか? キリスト教美術の闇|ちくまプリマー新書|岡田 温司|webちくま
  • ブラック・ライブズ・マターに至る、変わらぬ黒人差別の歴史を知る|ちくま新書|ジェームス・M・バーダマン,森本 豊富|webちくま

    現在、アメリカでは「ブラック・ライブズ・マター」(BLM)運動が再燃しています。このことからわかるとおり、公民権運動などで改善はしてきたものの、アメリカには黒人差別が変わらずに残り続けています。 ちくま新書『アメリカ黒人史』では、メンフィス生まれの著者が、奴隷制のはじまりから現在に至るまで、黒人が受け続けてきた差別と抵抗の歴史を解説します。まずは、「はじめに」をお読みください。 アメリカ黒人や他の有色人種に対する差別的扱いが最近になって改めて新聞の見出しを賑わしている。公民権運動が盛んになった1950年代から60年代以降、アファーマティブアクション(積極的優遇措置)などによるマイノリティに対する待遇改善や、アメリカ初の黒人大統領が選出されたことなど、半世紀以上を経て、アメリカ社会はかなりの改善を成し遂げてきたといえる。たしかに、マイノリティの地位向上は、1950年代当時と2020年の今とを

    ブラック・ライブズ・マターに至る、変わらぬ黒人差別の歴史を知る|ちくま新書|ジェームス・M・バーダマン,森本 豊富|webちくま
  • 盆踊りの変遷から見えてくるもの|筑摩選書|大石 始|webちくま(1/2)

    敗戦、高度経済成長、ニュータウンの造成、バブル、地域の高齢化・過疎化、東日大震災、コロナ禍… 大石始『盆踊りの戦後史』(筑摩選書)を読むと、そんな戦後日社会やコミュニティの変遷が見えてきます。 コロナ禍によりほとんど盆踊りが開催されなかった2020年の最後に刊行さる書が問いかけるものとは? まずは「はじめに」をお読みください。 2000年代以降、盆踊りがコミュニティーのなかで果たす役割について、世間の関心が高まったことが二度ほどあった。 ひとつは2011年の東日大震災、もうひとつは2020年の新型コロナウイルスの感染拡大時だ。東日大震災ではコミュニティーを結び直す力が見つめ直され、コロナ禍では多くの盆踊りが中止となったことから、かえって「なぜ私たちは盆踊りをやるのか」という基的な動機が見つめ直された。 盆踊りとひとことで言っても地域によって様式や背景は異なるが、いずれの場合も社

    盆踊りの変遷から見えてくるもの|筑摩選書|大石 始|webちくま(1/2)
  • 黄金の「地理学」|ちくま新書|藤原 辰史|webちくま

    『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』(湯澤規子著)について、藤原辰史さんに書評を書いていただきました。PR誌「ちくま」に掲載されたもののロングバージョンです。こののいろんな側面がうかびあがってきますので、ぜひご覧くださいませ。 1 と対比して、の変形にすぎぬ排泄に関わる研究は、それほど分厚くはないだろう、と思っていた。ところが書を読み、まず驚いたのは、排泄にまつわる参考文献の豊かさ、そして質の高さである。引用されるの一部を紹介しよう。三好春樹『ウンコ・シッコの介護学』、スーエレン・ホイ『清潔文化の誕生』、藤島茂『トイレット部長』、三俣延子「産業革命期イングランドにおけるナイトソイルの環境経済史」、林望『古今黄金譚』、姫田隼多『名古屋の屎尿市営』、斉藤たま『落し紙以前』、ロナルド・H・ブルーマー『拭く』、渡辺善次郎『都市と農村の間』など、なんとも魅力的なタイトルのに溢れている

    黄金の「地理学」|ちくま新書|藤原 辰史|webちくま
  • 日本にも依然としてある、レイシズムとはなにか|ちくま新書|梁 英聖|webちくま

    アメリカを中心に巻き起こったBLM運動。そこで再度、注目を集めたのが、レイシズムという差別である。それは、一般的には人種差別として理解されており、そのため日には人種差別はないと単純に考えることも多いが、実態はそのような単純な話ではない。人種はなくても人種差別は存在するのである。そういった背景を説明した「レイシズムとは何か」の冒頭を公開します。 「できるだけたくさんのメキシコ人を撃ちたかった」 「できるだけたくさんのメキシコ人を撃ちたかった」――。二〇一九年八月三日、米南部国境に近いテキサス州エルパソのウォルマートで、メキシコ系移民を狙って銃乱射事件を引き起こした犯人は警察にそう語ったという。その日のうちに二〇名を殺した犯人は二一歳の白人男性だった。彼は白人至上主義者が頻繁にヘイトスピーチ(差別煽動言説)を書き込むインターネット掲示板「8ch」(元々日の「2ちゃんねる」を真似たもの)に犯

    日本にも依然としてある、レイシズムとはなにか|ちくま新書|梁 英聖|webちくま
  • 秋田魁新報「イージス・アショア」報道編③ 地方紙の「使命」とは何か|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま

    地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 報道の現場と人を各地に訪ね歩く「地方メディアの逆襲」。第1部では、イージス・アショア配備計画を追い続けた秋田魁(さきがけ)新報を3回に渡って取り上げます。 今も息づく「蹈正勿懼」の精神 「蹈正勿懼」。正せいを蹈ふんで懼おそるる勿なかれ、と読む。1874(明治7)年、「遐邇かじ新聞」の名で創刊し、今年で146年。日の日刊紙で屈指の歴史を持つ秋田魁新報が、現在の紙名になった明治20年代から掲げる社是である。 「秋田県知事や県庁に対するわれわれのスタンスも、その言葉に尽きます。斟酌するところは一切ありません」と、泉一志・統合編集部長は断言する。 地方紙というのは地元の行政機関と持ちつ持たれつ

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  • 【第122回】コロナ禍でわかった医療費削減のツケ|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま

    ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2020年6月号より転載。 この欄で新型コロナウイルスに関連して感染症を取り上げたのは2か月前。そのときの数字(3月9日現在)では、世界の感染者は10万9032人、死者は3792人。日国内の感染者は1207人、死者は16人だった。それが現在どうなったか。 NHKの特設サイトによると、5月8日現在、世界の感染者は384万5718人、死者は26万9567人。国内の感染者はクルーズ船を除いて1万55755人、死者は590人、重症者が300人である。ちなみに感染者・死者ともに世界一のアメリカでは、感染者125万7023人、死者は7万5662人。国内で最悪の東京都では感染者

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  • 「周辺」から世界の歴史を見る|ちくま学芸文庫|川北 稔|webちくま

    BLACK LIVES MATTER運動が現代社会に突きつける暴力と不正義の歴史を、早くも1944年に書『資主義と奴隷制』で告発したエリック・ウィリアムズ。しかし、発表当初、彼の主張にまともに向き合う歴史学者は皆無でした。ただ一人、アメリカ人研究者ローウェル・ラガッツ博士を除いては。大学院生時代にそのラガッツ博士の講義を受け、ウィリアムズの著書の翻訳もされたイギリス史研究者の川北稔先生(大阪大学名誉教授)に、当時の状況と、書の意義について、解説していただきました。 『資主義と奴隷制』から世界システム論まで 植民地など、「周辺」とされる地域から世界の歴史をみようとする立場は、いわゆる世界システム論をはじめとして、いまではそれほど珍しくはない。そうした見方は、学問的にも市民権を得ているといえる。しかし、ほんの半世紀まえには、そうした立場は、まともな学問とはみられないものでもあった。先頭

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  • 「ていねいな暮らし」の戦時下起源と「女文字」の男たち|「ていねいな暮らし」の戦時下起源と「女文字」の男たち|大塚 英志|webちくま(1/4)

    5月4日、厚生労働省が新型コロナウィルスを想定した「新しい生活様式」を公表しました。感染対策のために、「手洗いや消毒」「咳エチケットの徹底」といった対策を日常生活に取り入れることだけでなく、会話や事、働き方など様々な領域における行動について指針を示しています。 この「新しい生活様式」という言葉から、戦時下に提唱された「新生活体制」を想起するという大塚英志さんに、エッセイを寄せていただきました。 テレビの向こう側で滔々と説かれるコロナ下の「新しい生活様式」なる語の響きにどうにも不快な既視感がある。それは政治が人々の生活や日常という私権に介入することの不快さだけではない。近衛新体制で提唱された「新生活体制」を想起させるからだ。 かつて日が戦時下、近衛文麿が大政翼賛会を組織し、第二次近衛内閣で「新体制運動」を開始。その「新体制」は、経済、産業のみならず、教育文化、そして何より「日常」に及ん

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  • 第一回 新型コロナウイルスの猛威の陰で|弱き者が見殺しにされる国|石井 光太|webちくま

    新型ウイルスの危機に接して、これまで見過ごされがちだった格差・差別の問題が顕在化しています。しわ寄せはまず、力を持たない、犠牲にされやすい人びとの側へと向かっていく――。その背景には「優先して守るべき人」と「守らなくていい人」に分ける、この日社会の暴力的な構造が潜んでいるのではないでしょうか。非常時の下で踏みにじられていく小さな声を、作家の石井光太さんが現場から伝えます(5月は毎週金曜日更新です)。 はじめに 二〇二〇年のゴールデンウィークに入って間もなく、私は都内の某病院で新型コロナウイルスの医療取材を行っていた。医療関係者に治療現場の話を聞いていたのである。 インタビューが終わって携帯電話を見ると、ある六十代の女性から着信履歴が九件もあった。かけてみると、電話口でこう言われた。 「息子が怖くて家から逃げてきました! 住むところがありません! どうしたらいいでしょう!」 この女性とは、

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  • パンデミックの夜に|特別掲載・大疫病の年に|重田 園江|webちくま

    新種のウイルスという見えない恐怖や先の見えない不安、そして氾濫する真偽不明な情報……。そうした奔流のただなかで、私たちは何を、どう考えるべきなのか。「分けるべきものを分け、結びつけるべきものを結びつける」──そうした思想史家の視点から、いま世界で起こっていることを理解するための糸口について、ご寄稿いただきました。ぜひご一読ください。 情報の氾濫と錬金術師 パンデミックをめぐって大量の言説が出回っている。情報の大波に、まさに溺れかけている人も多いだろう。新しい現象が起きたときというのは、確実なものと不確実なものを誰も明確に分けることができない。こうした振り分けは、未来においてはじめてある程度可能なことだ。時間を飛び越えられない人間存在の限界からすると、たとえば冷静に判断し「正しくおそれる」という台詞は、現状では空疎に響く。「正しく」がどうすることか明確に分からないなか、むしろ人々の不安を煽る

    パンデミックの夜に|特別掲載・大疫病の年に|重田 園江|webちくま
  • あの歴史上の人物が室町時代の京都にバーチャルリアリティをつくっていた?!|ちくま新書|桃崎 有一郎|webちくま

    武士の起源を解きあかす』で日史のなかで謎のままとされていた問題を解いた著者が次に描いたのが「足利義満」。 退かず、媚びず、省みない男・足利義満とその前後の時代に迫った『室町の覇者 足利義満』のプロローグをご覧くださいませ。 日文化で孤立する金閣寺 室町時代に、仮想現実空間(バーチャルリアルティ)を作った人がいた。まさかと思うが、当だ。その仮想現実の名残を、かなりの確率であなたは見たことがある。金閣寺である。 金閣寺(正式名は鹿苑寺)は希有の寺院だ。教科書で誰もが名前を覚えさせられ、多くの人が現物を見た経験を持つ。2018年に京都市を訪れた外国人観光客は450万人、そのうち金閣寺を見物した人は、48.1%の387万人もいた(『京都観光総合調査』)。 これほど外国人が金閣寺を見たがる理由は、一つしかない。〝よそで絶対に見られない景観〞だからだ。その証拠に、『外国人に人気の観光スポットラ

    あの歴史上の人物が室町時代の京都にバーチャルリアリティをつくっていた?!|ちくま新書|桃崎 有一郎|webちくま