「現代の高齢者を取り巻く状況は、伝統的社会とくらべて、悪化した部分の方が多い」とダイアモンドは言う。「高齢者が社会に提供できていた価値の大半が失われ、健康なのに哀れな老後を過ごす人が多くなった」からだ。 伝統的社会とは、何千年も前から存在してきた狩猟採集や農耕を生業にした小集団のこと。ダイアモンドは、南米やニューギニアに今も点在するこれらの社会の調査を続けてきた。 文字のなかった社会では高齢者は「生き字引」だったが、現代では文字が知識を蓄積してくれるため、高齢者の記憶や知恵に頼る必要がなくなったという。 また、技術の進化が遅かった時代は、高齢者の持つスキルに利用価値があったが、教育の充実や技術革新の加速で、いまや高齢者のスキルはあっという間に時代遅れになってしまう。健康状態が改善し寿命が伸びたことで、高齢者の数が急増し、希少価値も減ってしまった。 一方で、伝統的社会の一部では高齢者を支える