奈良県知事の収蔵品廃棄発言と、その背景にある本当に考えなければならないこと7月10日、奈良県立民俗博物館における収蔵品保管施設の問題について、同県知事による「明確なルールを決めたうえで、価値のあるものだけ残してそれ以外は廃棄処分することも含め検討せざるを得ない」といった発言が物議を醸している。民俗資料を保存することの意義や、その難しさについて民俗学者・加藤幸治が論じる。 文=加藤幸治(民俗学者・武蔵野美術大学 教授) 2012年に開催された「文化財レスキュー展」(せんだいメディアテーク、監修=加藤幸治)の様子。東日本大震災の被害からレスキューされた民俗資料を一堂に展示した企画。地域に根付く文化財の重要性を伝えた一例 撮影=加藤幸治 アノニマスな造形としての民具 人間が生活の必要から生み出した道具や器物を、民具と呼ぶ。 民具の造形的な意義は、「デザイナーなしのデザイン」の一言に尽きる。身近な