1929年に始まるアメリカの大恐慌時代、いくつもの銀行がつぶれました。そのなかのひとつの銀行の頭取は、世をはかなんで蒸発してしまいました。頭取から一転し、浮浪者となって、公園にたむろする身となったのです。 「乞食は三日やったらやめられない」といいますが、彼は「二度とあくせく競争するのは嫌だ」と、ブラブラ暮らしていました。この自由な生活に、真の安らぎをおぼえたのでしょう。 ある雨の日のこと、ひとりのルンペンが、彼に「どこか雨露をしのいで寝られるところはないか」と尋ねてきました。ガードの下か廃屋か、とにかく彼がその場所を教えると、ルンペンは彼の手のひらに五セント玉をおいたのです。そのとき、彼の身体のなかに、事業家の血が再び流れはじめました。 雨をしのげる場所を教えたら、五セントもらえる いくら浮浪者でも、お金は必要です。自分は何ヶ所、そんな場所を知っているか・・。彼はノートを出して、知っている