物理学者リチャード・ファインマンは、彼の書きためたノートを見た歴史学者チャールズ・ワイナーが「これは素晴らしい研究記録だね」と言ったとき、「違う違う、これは思考プロセスの記録じゃなくて、思考プロセスそのものなんだ」と言い返したそうです。頭で考えたことを紙に記したわけじゃなくて、まさに紙の上で考えているのだ――彼はそう説明したのでした。 ファインマンの話は奇妙に聞こえるかもしれませんが、実際には誰もが日常的に経験していることではないでしょうか。コピー紙の裏側に書き込みをしながらディスカッションしているうちに、発表の骨子が固まった。ノートに何気ない落書きをしている時に、ふと良いアイデアが浮かんだ、等々。それは確かに考えたことを記録していただけかもしれませんが、外部に記録された思考が整理され、肉付けされ、あるいは再び脳の内部を刺激して、思考を促していったわけです。それは「紙」というメディアが、思