降伏点の明瞭な炭素鋼に引張荷重をかけると,上部降伏点で鋭く降伏が起こり,応力は急激に下部降伏点に降下する.これは上部降伏点で試験片中の応力集中の起こりやすい小さい領域で局部的なすべり変形が開始し,この領域が広がっていくためで,変形はこの領域(リューダース帯)の先端のみで起こる.引張試験片中ではこのリューダース帯は試験片の肩の部分より発生し,反対側の肩で発生したものと交差したり,また反対側の肩で反射を繰り返して進行する.試験片の表面がよく研磨してあれば肉眼でその進行が観察できる.このリューダースひずみは深絞り作業において“ストレッチャストレイン”を起こしたり,これに関連するひずみ時効は脆化を起こすので好ましくない.リューダース帯やストレッチャストレインは軟鋼のみでなく,軟鋼と同じ鋭い降伏点を示すアルミニウム-マグネシウム合金でも起こる.