ブックマーク / huyukiitoichi.hatenadiary.jp (98)

  • 月から飛来したウィルスが船橋を恐怖に叩き落とす、圧巻のディザスター・ミステリ──『月の落とし子』 - 基本読書

    月の落とし子 作者: 穂波了,Kanehira K出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/20メディア: 単行この商品を含むブログを見るこの『月の落とし子』は穂波了のデビュー作(ただし別名義でのデビュー作あり)にして、第9回アガサ・クリスティ賞の大賞受賞作である。刊行前からどうやら最初の舞台は月面からはじまるSFライクなミステリィであると聞いていて期待していたんだけど、実際に読んでみたらいやあこれは凄い! 「新人のデビュー作としては凄い」とかいう限定や留保なしに、単純に滅茶苦茶おもしろいエンターテイメント小説だ! ざっとあらすじを紹介する。 特に宇宙飛行士の月面探査中にウィルスの感染・発症が発覚する前半100ページは今年読んだ小説の中でもトップクラスの引き込み力で、そこで慣性をつけられてそのまま読み切ってしまった。物語冒頭はまず、栄光に満ちた人類のミッションから始まる。月面

    月から飛来したウィルスが船橋を恐怖に叩き落とす、圧巻のディザスター・ミステリ──『月の落とし子』 - 基本読書
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    torus1 2019/11/26
  • 早川書房のSFコンテストを受賞した二作(ハードSFの期待の新星『オーラリメイカー』、描写で魅せる重厚なSFファンタジィ『天象の檻』)を同時に紹介する。 - 基本読書

    オーラリメイカー 作者: 春暮康一,rias出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/20メディア: 単行この商品を含むブログを見る天象の檻 作者: 葉月十夏,長乃出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/20メディア: 単行この商品を含むブログを見る春暮康一『オーラリメイカー』は第七回SFコンテストの優秀賞、葉月十夏『天象の檻』は同じく第七回の特別賞ということで、どちらも今一番新しいSFコンテストからの刊行作になっている。このSFコンテストは2012年に一度仕切り直された形で始まった賞なのだけれども、全7回のうち今回も含めて3回が大賞が出ていない(特に第4回以降は大賞が出たのは、第5回の『コルヌトピア』『構造素子』のみ)。 というわけで、この数回の実績だけみると大賞が取りづらい賞ともいえるのだけど、そのかわりこうして芽のある作品はちゃんと刊行されるともいえる。

    早川書房のSFコンテストを受賞した二作(ハードSFの期待の新星『オーラリメイカー』、描写で魅せる重厚なSFファンタジィ『天象の檻』)を同時に紹介する。 - 基本読書
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    torus1 2019/11/24
  • 世界最大の詐欺のため、詐欺師を中心とした各分野のプロフェッショナルが集合するSF版オーシャンズ11──『量子魔術師』 - 基本読書

    量子魔術師 (ハヤカワ文庫SF) 作者: デレク・クンスケン,金子司出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/20メディア: 文庫この商品を含むブログを見るこの『量子魔術師』はカナダ生まれの作家デレク・クンスケンによる第一長篇にして、スペース・オペラ版オーシャンズ11といった感じのSFである。この、バカっぽいタイトルであるにも関わらず(原題も『The Quantum Magician』)、『三体』の劉慈欣が『テクノロジーはわれわれを、肉体さえ、根的に変える。それをクンスケンは見事に示した』とコメントを寄せていたりして、バカ寄りじゃないのか……? と思っていたが、読んでみたらちゃんと痛快娯楽SFであった(バカではない)。 あらすじをざっと紹介する。 あらすじを紹介すると、魔術師と呼ばれる腕を持つ詐欺師ベリサリウスが、サブ=サハラ同盟と呼ばれる小さな国家から、厳重な警備によって

    世界最大の詐欺のため、詐欺師を中心とした各分野のプロフェッショナルが集合するSF版オーシャンズ11──『量子魔術師』 - 基本読書
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    torus1 2019/11/21
  • アジアの各国でBLはどのように受容されているのか?──『BLが開く扉 ―変容するアジアのセクシュアリティとジェンダー』 - 基本読書

    BLが開く扉 ―変容するアジアのセクシュアリティとジェンダー― 発売日: 2019/10/25メディア: 単行(ソフトカバー)この『BLが開く扉』はアメリカ生まれで現在神奈川大学の外国語学部の教授をつとめるジェームズ・ウェルカー編集による、アジアの文脈におけるBLの受容のあり方をめぐる論考を集めたアンソロジーだ。僕はBLの愛好家というわけではないが、BL作品が文化や読み手にどのような影響を与えるのか、また現代のフェミニズム的な思想、文脈からBL(や百合)的な作品がどのような意味を持っているのかは気になっていて、その流れで書も手にとったわけだけれども、これは大変勉強になった。 たとえば、「BLとスラッシュのはざまで 現代中国の「耽美」フィクション、文化越境的媒介、変化するジェンダー規範」と題された論考では、シュウ・ヤンルイとヤン・リンによって中国の耽美と呼ばれる男性同士の恋愛物語をまとめ

    アジアの各国でBLはどのように受容されているのか?──『BLが開く扉 ―変容するアジアのセクシュアリティとジェンダー』 - 基本読書
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    torus1 2019/11/19
  • 生態系を救うため、様々な過去を持つアウトサイダーらが結集する、パワーズ最新作──『オーバーストーリー』 - 基本読書

    オーバーストーリー 作者: リチャードパワーズ,Richard Powers,木原善彦出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2019/10/30メディア: 単行この商品を含むブログを見るこの『オーバーストーリー』はリチャード・パワーズの新刊である。『舞踏会へ向かう三人の農夫』や『われらが歌う時』、『幸福の遺伝子』に『オルフェオ』とどれもこれも年間ベスト級の傑作ばかり書くパワーズの新刊とくればそりゃあ買わないわけがないわけなのだけれども、何といっても今作はまず装丁が凄まじくかっこいい! 作は一言でいえば木とそれに関係する人間、人類の物語なのだけれども、それを繁栄して力強く巨大な木が表紙に鎮座している! 加えて邦訳書らしからぬ英題が邦題よりもデカく、金ピカのロゴで入っているのがめちゃ映える。書影が存在しないときから予約していたので、手元に届いた時あまりにも美しくてびっくりしてしまった。Kin

    生態系を救うため、様々な過去を持つアウトサイダーらが結集する、パワーズ最新作──『オーバーストーリー』 - 基本読書
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    torus1 2019/11/14
  • 整理をしないという整理──『アンチ整理術』 - 基本読書

    アンチ整理術 作者: 森博嗣出版社/メーカー: 日実業出版社発売日: 2019/11/08メディア: 単行(ソフトカバー)この商品を含むブログを見る森博嗣氏の新刊である。今回のテーマは「整理術」──というが、長年森氏の日記を読んでいる人からすれば当然わかるように、氏の家は雑然としている。物がたくさんあって、なんというか、好きなものがそこら中に転がっているような大人の子ども部屋みたいな、夢のイメージがある(写真以外では一度も見たことがない)。 整理をしないという整理 そういうわけなので氏は「整理」をしない人なのである。だから書のタイトルも「アンチ整理術」になっている。つまるところ、氏にとっての整理術とは整理をしないことである。その理由も理屈が通っている。整理する時間があるならば、研究や創作や工作を少しでも前進させたい、だから整理なんてしてられない、そもそも何かを作っている時というのは必

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    torus1 2019/11/12
  • 人生を作品のつながりを浮き彫りにする、大作伝記──『ミヤザキワールド ─宮崎駿の闇と光』 - 基本読書

    ミヤザキワールド ─宮崎駿の闇と光─ 作者: スーザンネイピア出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/11/06メディア: Kindle版この商品を含むブログを見るアニメーションと日文化の研究者スーザン・ネイピアが真正面から宮崎駿を捉えて書いた伝記である。宮崎駿については日語では膨大に語られた資料があり、人の真意もいまいち捉えがたい面があり、作品的にも──と日文化に精通していないと真正面からの伝記はなかなか難しいんじゃないかな──と若干侮っていたんだけど、読みはじめてしばらくしたらいやあこれはすごい! と惚れ込んでしまった。 情熱的な筆致で、同時にとてもロジカルで、先行の研究や批評を丁寧に織り交ぜながら、自身の見解もしっかりと取り込んでいく。宮崎駿の人生と作品をおっていく中で、特に重要な部分についてはしっかりと文字数を費やしてアニメのシーンを描写していくのだけど、その文章が

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    torus1 2019/11/08
  • 天体物理学と宇宙戦争について──『宇宙の地政学:科学者・軍事・武器ビジネス』 - 基本読書

    宇宙の地政学:科学者・軍事・武器ビジネス 上 作者: ニール・ドグラース・タイソン,北川蒼,國方賢出版社/メーカー: 原書房発売日: 2019/10/25メディア: 単行この商品を含むブログを見る宇宙の地政学:科学者・軍事・武器ビジネス 下 作者: ニール・ドグラース・タイソン,北川蒼,國方賢出版社/メーカー: 原書房発売日: 2019/10/25メディア: 単行この商品を含むブログを見る全地球測位、通信、監視、ナビゲーション、気象観測など、現代の社会や軍隊は衛星に大きく依存している。それはつまり衛星を攻撃する価値も高まっているということだ。宇宙はどこよりも高い戦略高地であり、そこをどのように支配するのか、あるいは他国の支配に抵抗するのか──というのは今非常に重要なトピックになっている。 たとえば、2007年の1月に中国は自国の老朽化した気象衛星にミサイルを当てて破壊した。この破壊行為

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    torus1 2019/11/03
  • 特殊な能力者たちが運営する世代宇宙船《ノア》で起こった、〈ひき肉〉殺人事件を解き明かすディストピア・宇宙SF──『果てなき護り』 - 基本読書

    果てなき護り 上 (創元SF文庫) 作者: デイヴィッド・ラミレス,中村仁美出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/10/24メディア: 文庫この商品を含むブログを見る果てなき護り 下 (創元SF文庫) 作者: デイヴィッド・ラミレス,中村仁美出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/10/24メディア: 文庫この商品を含むブログを見るこの『果てなき護り』はフィリピン生まれでアメリカのカリフォルニア大学で分子生物学を専攻し、その後フィリピンに戻ってコンピュータサイエンスを院で学び、作家に転じるという異色の経歴を持つデイヴィッド・ラミレスのデビュー作である。 記事名通りの世代宇宙船ものでディストピアでミステリィっぽい作品でもあるのだけれども、その後巧緻な陰謀スリラーに転じ、世界の真実が明らかになるとともに革命についての物語になり、最後にはまたとんでもないところまでいって違っ

    特殊な能力者たちが運営する世代宇宙船《ノア》で起こった、〈ひき肉〉殺人事件を解き明かすディストピア・宇宙SF──『果てなき護り』 - 基本読書
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    torus1 2019/10/31
  • 『ギルガメシュ叙事詩』から『叛逆航路』まで、神話、SF、幻想、ファンタジィ中心の最高のブックガイド!──『世界物語大事典』 - 基本読書

    世界物語大事典 作者: ローラミラー,巽孝之,Laura Miller,越前敏弥出版社/メーカー: 三省堂発売日: 2019/10/11メディア: 単行この商品を含むブログを見るこの『世界物語大事典』はすごいだ! この世界には様々なが存在するが、その中でも「僅かなりとも現実から離れた」、つまり神話とかSFとか幻想、ファンタジィを中心に、太古の『ギルガメシュ叙事詩』から現代の『ハンガー・ゲーム』まで、幅広く紹介していく一冊である。 文字数的には1500〜4500ぐらいに収まり、深く解説しないものも多い。そうはいっても英語圏のみならず中国、日小説(『1Q84』とか)取り揃え、ざっとした内容紹介からその小説が当時どのように受け入れられたのか、どのような歴史的意義があるのかを解説していってくれるので、一言でいえばたいへん勉強になる一冊だ。 たとえば、叙事詩『ベオウルフ』とか「なんかベオウ

    『ギルガメシュ叙事詩』から『叛逆航路』まで、神話、SF、幻想、ファンタジィ中心の最高のブックガイド!──『世界物語大事典』 - 基本読書
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    torus1 2019/10/26
  • BIを導入したら本当に人は働かなくなるのか?──『みんなにお金を配ったら──ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?』 - 基本読書

    みんなにお金を配ったらー―ベーシックインカムは世界でどう議論されているか? 作者: アニー・ローリー,上原裕美子出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2019/10/11メディア: 単行この商品を含むブログを見るベーシックインカムという、最低限所得保障の考え方がこの世に存在する。簡単に説明すれば、一月3万なり10万なりを、制限をつけず全国民に配布しちゃいましょう、という考え方である。「え、毎月10万貰えたらメッチャ嬉しい、やったー!」と気分が沸いてくるが、実際には利点に関しても欠点に関しても様々な議論がある。 BIの想定される利点と欠点 たとえば、そもそも財源をどうするんだ、という問題がある。また、全国民に配分するということは、金持ちにも同様に配るわけなので、貧困者を狙い撃ちにしたほうがもっと効果的なんじゃない? 説もある。他にも、毎月10万も(仮に)もらえたとしたら、人々は働かなくな

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    torus1 2019/10/16
  • ゲームAIの基礎がこの一冊に集約されている!──『ゲームAI技術入門──広大な人工知能の世界を体系的に学ぶ』 - 基本読書

    ゲームAI技術入門──広大な人工知能の世界を体系的に学ぶ作者: 三宅 陽一郎出版社/メーカー: 技術評論社発売日: 2019/09/30メディア: 単行AmazonKindle書はゲームAIの研究と開発の最前線で戦い続けている三宅陽一郎さんの「ゲームAI技術入門」である。三宅さんはこれまで何冊もを書かれていて、入門編的な意味だと昨年出た『高校生のための ゲームで考える人工知能』も素晴らしいんだけど、書(ゲームAI技術入門)は技術評論社から出ているだけあって専門的にアルゴリズムを紹介・説明していて、しっかり理解したいならまずはこちらをオススメしたい。 とはいえ、ガチのゲームプログラマ向けというわけでもなく、文中にほとんどコードは出てこないし、基的にアルゴリズムの概念の説明に終始しているので、「ゲーム好き/ゲームAIに興味があるけどプログラムとか書いたことない」とかそういう人でもま

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    torus1 2019/10/07
  • ツイッターから解放されるために──『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』 - 基本読書

    デジタル・ミニマリスト: 当に大切なことに集中する作者: カル・ニューポート出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/10/03メディア: 単行AmazonKindleこの『デジタル・ミニマリスト』は、端的にいうと「TwitterやFacebookみたいなSNSは人間の注意・関心をハックしてくる存在であって、時間の無駄だから、やめられるならやめたほうがいい」というである。最初に具体的に「どのようにそうしたSNSが我々の注意と時間を奪っているのか」を述べ、その後に実践編として「じゃあ、どうすれば我々はSNSから離脱できるのか」を紹介していく流れになっている。 「まさに自分が求めていただ!」と思う人も多いのではないかと思う。何しろ、僕がまさにそうだったからだ。 ツイッターをやめようと奮闘する日々 というのも僕は特にTwitterに関して、この2年は利益よりも害が多くなってしまった

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    torus1 2019/10/05
  • SFミステリアドベンチャーゲームの快作──『AI:ソムニウムファイル』 - 基本読書

    AI: THE SOMNIUM FILES(アイ: ソムニウム ファイル) -Switch 【CEROレーティング「Z」】 (【予約特典】スペシャルサウンドトラック~REVERIES IN THE RaiN~ 同梱) 出版社/メーカー: スパイク・チュンソフト発売日: 2019/09/19メディア: Video Gameこの商品を含むブログを見る先日中国のミステリ/SF作家の陸秋槎さん(だけど金沢に住んでる)がこの『AI:ソムニウム ファイル』を中国のミステリーファンの間で話題だとツイートしていて気になってすぐ買ってやったのだが、確かにSFミステリとして抜群におもしろい。 陸秋槎 on Twitter: "三連休にこれをクリアした。最近中国のミステリーファンの中に結構話題になったが(中国語訳があるから)、日であんまり注目されていないね。SFミステリー傑作だと思う。… " 最初の3時間ぐら

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    torus1 2019/10/03
  • 十二人を殺害し五〇人を暴行、百件以上の強盗を行った最悪の殺人鬼──『黄金州の殺人鬼──凶悪犯を追いつめた執念の捜査録』 - 基本読書

    黄金州の殺人鬼――凶悪犯を追いつめた執念の捜査録 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-9) 作者: ミシェル・マクナマラ,村井理子出版社/メーカー: 亜紀書房発売日: 2019/09/28メディア: 単行(ソフトカバー)この商品を含むブログを見るこの『黄金州の殺人鬼』は、いわゆる連続殺人鬼を追った事件物のノンフィクションなのだけれども、まず他の事件と比較して凄いのはこの殺人鬼が犯した罪の量だ。 1970年代から1980年代にかけて、少なくとも12人を殺害、50人を暴行(レイプ)とその件数だけでみても異常だが、一週間に一人などのハイペースで襲って、犯人の見た目、目撃情報なども出揃ってきているにも関わらず足取りを掴ませない用意周到さがあった。どれほど容疑者を絞り込んでDNA鑑定をしても犯人を特定できず、書の原書刊行は2017年のことなのだが、その時はまだ犯人は捕まっていなかった

    十二人を殺害し五〇人を暴行、百件以上の強盗を行った最悪の殺人鬼──『黄金州の殺人鬼──凶悪犯を追いつめた執念の捜査録』 - 基本読書
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    torus1 2019/09/30
  • 奇想からSFまで、尽きぬアイディアに支えられた極上の超短篇集──『銀河の果ての落とし穴』 - 基本読書

    銀河の果ての落とし穴 作者: エトガル・ケレット,広岡杏子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2019/09/20メディア: 単行この商品を含むブログを見るこの『銀河の果ての落とし穴』は、イスラエル生まれの作家エトガル・ケレットによる短篇集である。正直「なんか書名がSFっぽいな〜〜〜」ぐらいの興味で買ったのだけれども、これが大当たりだった。ほとんどは2〜8ページぐらいのごく短い超短篇なのだが、それゆえにこそどれも人生にほんの一瞬だけ現れる特別な感情を丁寧に掬い上げていくものばかりで、読み進めていくたびにのめり込んでいった。 題材も奇想的なものからSF的なもの、その組み合わせに自身の出自とも関連したホロコースト物など多岐多様。尽きぬアイディアの魅力もあって、端的にいって短篇集として破格の出来である。超短篇という性質上あんまり中身自体は紹介しづらいんだけど(あっという間にオチまでいって

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    torus1 2019/09/28
  • 悪を科学で分析する──『悪について誰もが知るべき10の事実』 - 基本読書

    悪について誰もが知るべき10の事実 作者: ジュリア・ショウ,服部由美出版社/メーカー: 講談社発売日: 2019/09/12メディア: 単行この商品を含むブログを見る正義は人の数だけあるというが、悪についても同じことが言えるだろう。肉をべるというだけで悪認定されることもあるだろうし、婚外子であるというだけで悪とされることもあるだろう。悪が何か、というのは結局のところ文化によって決定される。 書はそうした「悪とは何なのか」に踏み込もうとするであったり、悪について包括的に考えようとするではなく(そんなことを始めたら一冊では終わらないだろう)、「悪」とされた人、レイプ犯や殺人犯、人に対して攻撃的な言動をとる人間らを神経科学や脳科学、社会実験の数々を通してばらばらに分解し、「悪を理解しようとする」一冊である。「理解する」といっても注意しておきたいのは、これは悪の原因を脳内の構造や神経学

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    torus1 2019/09/26
  • ワイドスクリーン・バロックという言葉を生み出した、複雑怪奇、超絶怒涛の幻の名作SF──『パラドックス・メン』 - 基本読書

    パラドックス・メン (竹書房文庫) 作者: チャールズ・L.ハーネス,Charles L. Harness,中村融出版社/メーカー: 竹書房発売日: 2019/09/12メディア: 文庫この商品を含むブログを見るこのチャールズ・L・ハーネス『パラドックス・メン』は、1953年に刊行された長篇SFの初の邦訳である。なぜ70年近くも前の作品が今さら翻訳されるのだ、といえば刊行元である竹書房の立ち位置、この企画を実現できる稀有な翻訳者と編集者がいたことであったり色々あるのだけれども、作品に重点をおけば、それはこの『パラドックス・メン』が長らく未邦訳の幻の傑作扱いされていた、という点にある。 というのもSFには〈ワイドスクリーン・バロック〉と呼ばれるSF内ジャンル、作品傾向の呼び名があるが*1、名付け親であるオールディスはまさにこの『パラドックス・メン』を高らかに褒め上げ、初めてその言葉を使ったの

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    torus1 2019/09/17
  • デビュー40周年をむかえ、なおあらたな領域を開拓し続ける作家・神林長平──『先をゆくもの達』 - 基本読書

    先をゆくもの達 作者: 神林長平出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/08/20メディア: 単行この商品を含むブログを見る『先をゆくもの達』は、SFマガジンの連載の単行であり、同時に今年(2019年)デビュー40周年を迎えた神林長平が「この先へ」向かうための宣言ともとれるような、執念の長篇である。読んでいて「か、神林長平、まだまだアクセルを踏み込むのか……」と愕然とする思いがあった。「地球」と「火星」の両方が舞台になるなど、他いくつかの面で神林の代表作の火星三部作を思い起こさせるが、主題となっているのは神林がこれまで描き続けてきた「意識の在りよう、その変遷」であり、作ではそのテーマをさらに発展させ、「次世代の意識と知性」に踏み込んでいる。 で、次世代の意識ってなんやねんって感じなんだけど、当然今の我々の持っている「意識」とは別物なのである。作は、全6話、それぞれ別の人物・

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    torus1 2019/09/04
  • 恋人から食事、命の価値までアルゴリズムで決定されるディストピア・コメディ──『クオリティランド』 - 基本読書

    クオリティランド 作者: マルク=ウヴェ・クリング,森内薫出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2019/08/24メディア: 単行この商品を含むブログを見る17年のドイツSF大賞の一位作品である。ドイツの、それもSFはあまり翻訳されないのだが、3年前に同じく河出書房から監視社会物のドイツSF『ドローンランド』が出ており、妙な符合を感じる(編集者がランドが好きなだけかもしれない)。 で、ドイツSF大賞第一位とはいっても、帯に書かれている「AIとアルゴリズムが管理する格付け社会」とか、「事も音楽も恋人もすべては決定されている」とか、こういった管理社会物の設定ではありふれすぎている。うーんいや悪かないけど、今さらそれを小説でド直球でやるのはどうなんだろうなあ……と思いながら読み始めたのだが、実際は管理社会を舞台にした風刺コメディといった内容であり、めっぽうおもしろく読んだ。コテコテの管

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    torus1 2019/08/31