サリンジャー、カポーティ、フィッツジェラルドなどの名作から、殺人犯の精神を描いたノンフィクション、イギリスの新鋭作家の異色作まで、村上春樹さんが翻訳した作品は世界文学の鼓動を伝えています。本読みのプロによる書評を手がかりに、村上ワールドを作る翻訳を読み返してみませんか。 ■人の心問う異色の「近未来」小説 英国出身の著者は、小説家である傍らドキュメンタリー番組制作にも携わっており、本書はチェチェンやチェルノブイリ近郊の取材から着想を得た迫真の「近未来」長編小説である。 酷寒の北の地のゴーストタウンで、生まれ育った家に独り住み続ける「私」。かつては質素ながら平和だった街の…続きを読む