紙の上に書かれたものに価値があるのは、それを読むことを通じて知識や表現の持つ意味が伝わる場合だ。グーテンベルク以前の書物は、それを扱う様々な文化的行為によって、今日では容易に想像できないほどの力を持ち得ていた。モノとしての本が相対化されることで、読むことを中心とした新しい環境が見えてきたが、それは偉大な伝統の復活の可能性を告げている。(鎌田博樹) メディアとしての紙が生み出した文化的時空間 フランクフルトへの旅の間、『メディアとしての紙の文化史』(ロータ・ミュラー著、東洋書林)という本を読んでいた。小林龍生さんが絶賛し、貸していただいたものだ。これが発表資料を仕上げるのにとても役に立った。 これまで筆者は、「グーテンベルク(G=活字)」に囚われすぎ、紙というあまりに自然で偉大なメディアを中心に考えるべきことを忘れがちであったように思える。Gはすでに仮想化されることで紙からは自由な存在となっ