菅政権による学術会議会員任命拒否は、強権による思想弾圧につながるのではないか。この問題に政権の「反知性主義的支配」を透視する政治学の俊英が、軍国主義下の思想弾圧の嚆矢であった滝川事件を振り返りながら、全体主義的な統治に抵抗する道を探る――。 「考えるな!支配に身をまかせよ!」という権力 いま、学者たちに「滝川事件」の時のような「必死の抵抗」はあるか? 「ポイント・オブ・ノー・リターン」という概念がある。私たちが自分たちの国をかつて亡(ほろ)ぼしたとき、一体どこに「ノー・リターン」の時点があったのか、多くの議論が積み重ねられてきた。軍国主義化に抵抗する世論の駆逐・平定という角度から見たとき、1933年の滝川事件(京大事件とも呼ばれる)は、そう見なされるにふさわしい事件であった。 同事件は、京都帝国大学法学部教授で刑法学者の瀧川幸辰(たきかわゆきとき)の著書『刑法読本』をマルクス主義的であり危