高校生の頃、ステーキレストランでバイトをしていた。数店舗展開の小さなチェーン店の一つだった。 ディナーのラッシュが落ち着いた所で休憩に入ると、たまに店長が「ご飯盛っておきな」と言ってくる。好きなだけ盛っておき、頃合いを見て店長に渡すと、ステーキが載って帰ってくる。形が悪かったり端切れのような中落ちみたいな肉はステーキとは言い難かったが、これがとてつもなくウマかった。 社長の抜き打ち来店を警戒しながら、裏で黙って食うこの肉が好きだった。 あの頃一緒に働いてた同級生、年上のめちゃ可愛いお姉さん、頑固なじいさん社員や新米の優しい社員、よくしてくれた店長、皆いま何しているのだろうか。元気なら、それだけで充分すぎるのだが。 もう何年も前に無くなったあそこのお店で、もう一度だけあの不恰好な肉を食べたい。自分にとっての一番ウマかったステーキ。
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