「核燃料サイクルという迷宮」 [著]山本義隆 東京電力福島第一原発からは大量の処理水が海洋放出されているが、この件で「安全性に問題はないから流せばよいのだ」と居丈高に言い放つ論者が目立ったことには、愕然(がくぜん)とした。廃炉のめどは立たず、近隣国の支持も得られず、漁業者との約束も破って放出するのだから、まさに痛恨である。だが、この恥ずかしい「敗戦国」で、被災地への負い目も忘れ、むしろ勝ち誇る者さえいるのはなぜか。 このような倒錯は、本書が明快に示すように、もともと戦前から存在していたものである。「資源小国」というコンプレックスを抱いた日本は、資源を求めてアジアでの侵略戦争に到(いた)り、戦後は原子力政策を推進した。「もたざる国」日本にとって、原子力のエネルギーは劣位を逆転する魔法と信じられたのである。 だが、原発稼働には核廃棄物という難題がある。そこで使用済み燃料を再利用する「核燃料サイ