「私ね……あの子の可能性を……潰したくない」 草彅剛演じるトランスジェンダーの凪沙が、苦しそうな表情で、やっと捻り出した言葉をぼんやり聞いていた。 映画「ミッドナイトスワン」は、新宿のニューハーフショークラブで働く凪沙が、ネグレクトを受けている親戚の少女を家に迎え入れる作品だ。 当初は、半ば子育てを押し付けられたこともあり、凪沙は「言っておくけど好きであんたを預かるわけじゃないんだから」とピシャリと言い放つ。 しかし、次第に少女が始めたバレエを通して、不器用に心を通わせ「母になりたい」という感情が芽生え始める。 「ミッドナイトスワン」は、母とは何か問うてくる。腹を痛めて産んだ存在だろうか、戸籍で認められた保護者だろうか、女の身体を持っていることが前提なのだろうか、一時をともに過ごしただけではなりえないのだろうか。 ゴツゴツとした頬骨とがっしりとした肩を隠すように、長い髪をたゆたわせて歩く凪