■民百姓の目で絶対の弱者描く 中国のノーベル賞作家莫言が、最も信頼する日本の翻訳者だ。初期の『天堂狂想歌』から最新の『蛙鳴(あめい)』までほとんどの長編を訳している。莫言は20歳年上の吉田さんを大叔(ターシュー)、叔父さんと呼んで敬愛する。 「この1年間何も書けなかったそうです。受賞騒ぎが一段落して、やっとまた書き始めました」 竹のカーテンに包まれていた新中国への関心から、京都大学で中国文学を学び、佛教大学で長く教えた。『莫言神髄』では、人となりと文学をエッセー風につづっている。 「あの自由奔放な文体からは想像もつきませんが、内気で寡黙な人です。本質的に百姓なんです」 莫言の神髄とは。 「民百姓の目で絶対の弱者を描いています。どんな価値観にもしがみつくことを放擲(ほう・てき)しており、中国共産党の共の字も信じてはいません」 出会いに運命を感じるという。 「僕の父は広島県の山村で農業のかたわ