主人が大切にしていた皿を割ったと責められ命を落としたお菊。間もなく井戸から「一枚、二枚……」と皿を数える恨めしそうな声が聞こえるようになった--。 誰もがよく知る「皿屋敷」の怪談。この作品では、お菊の姿が透明感ある色合いで描かれている。鈍くグレーに光る着物の模様は、下半身に向かうにつれ淡い色に。地面から立ち上る闇の中に足元はまぎれ、背後にある井戸も透けて見える。色味を抑えた画面の中で、じゅばんの赤がちらりと見えるのは、かろうじて残る生前の情のようなものだろうか。繊細に表現された前髪からは、すすり泣く目元が見える。 太田記念美術館の学芸員、渡辺晃さんは1890(明治23)年作の本作品を「この時代に特有の表現」だと解説する。江戸時代の幽霊は強い恨みを持ったおどろおどろしい姿で描かれていることが多いという。しっとりとした悲しみを前面に出した本作品は、幽霊というより一人の女性の悲しい人生を描いてい