『フッサール 志向性の哲学』(青土社、2023年)を、著者の富山豊さんからお送りいただいた。待望の単著といっていいだろう。志向性に関するフッサールの見解について私が論じる次の機会——万事が順調に進めば今年の5月後半には最初の機会がやってくる——に本書を詳しく検討しなければならないことははっきりしているので、まずはざっと一周読んだ。読む前から分かっていたことではあったが、期待させるだけ期待させておいて……ということにはまったくならなかった。待ち望んだ甲斐があった。以下に簡単な感想を記しておく。同書のページ数への参照はアラビア数字だけで行う。 本書はフッサールに関する入門書だが、私の知るかぎり、他のどの類書とも異なっている。ある哲学者についての入門書というものは、その哲学者の思想の全体像を示すのを目的にするのが通例である。それに対して本書は、フッサール現象学の全体像を包括的に示すわけではない。