歳末の街頭募金を呼びかける救世軍の鐘が耳の奥底まで響くのを感じながら、私はソウルから高速バスで100キロあまり離れた町に向かった。2018年10月に済州島で出会ったイエメン人ラムズィー(仮名)に会うためである。その1か月後、済州から移動してきたばかりの彼にソウルで再会したとき、何だか弱気になっているように見えて後ろ髪を引かれた。私が日本に戻ってからしばらくは連絡も途絶えがちになったが、今回ソウルに戻ってきたことを知らせると、自動車工場で働き始めたから絶対に会いに来いという返事がすぐに来た。 2018年に入るまで、誰にとっても「済州島」と「イエメン」は、直接結びつく地名ではなかったはずだ。突如、済州島の歴史などまったく知らないであろうイエメンの男たちが、自身の移動によってこの二つの場所のあいだに見えない線を引いた。イエメンを舞台にサウジアラビアとイランが代理戦争を行うなか、命の危険を感じた彼