今のアイドル・ブームにおいて、彼女のような存在はいるのだろうか? そんなことをつい考えてしまうほど、中森明菜はとても特別な存在だった。彼女がデビューした1982年は、いわゆるアイドル黄金期だ。小泉今日子、早見優、石川秀美、原田知世などが続々と登場し、テレビも映画もCMも歌番組もすべてがアイドルづくし。そのなかでも、一足先にデビューしていた松田聖子は別格の存在で、いわゆるかわいくて明るい典型的なアイドルの代名詞。その一方で、どこか影のある中森明菜の存在も大きく、陰と陽のように人気を二分していたというイメージだ。「少女A」、「禁区」、「北ウイング」、そして「飾りじゃないのよ涙は」といった初期の名曲群には、その“陰”の魅力が目一杯詰め込まれている。 成長していくにつれ、彼女はセルフ・プロデュースによってアルバム制作に取り組み、徐々にアイドルから脱皮。アーティスティックなイメージを身にまとうよう