文芸評論家・福田和也氏の久々の新刊『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』(河出書房新社)が話題を集めている。かつての恰幅の良さとは別人のような福田氏の姿がカバーに写っていること、コロナ禍に苦しむ飲食店へのエールとして書かれていること、そして帯にある「時代へのラスト・メッセージ」という文言などからだろう。 作家で、福田ゼミ出身でもある鈴木涼美氏が、学生時代を回想しながら、この本がはらむ豊かな内容を読み解く──。 蕎麦屋で開かれた福田ゼミの句会 七月の第二週であったと思うが梅雨が明けて間もないその日は晴天で日差しが強い割に朝から酷い湿気で、私は胸元を金属で留める伸縮素材のミニ・ワンピースを着て、足元は分厚いウエッジソールのストラップが細いサンダルを履いていた。 服装まで細かく覚えているのは、店の前で撮った集合写真を長いこと持っていたからで、映っている生徒の半分以上の名前がわからないので、それ