――『断片的なものの社会学』などの著作を通じ、社会学者として知られていた岸さんが初めて発表した小説『ビニール傘』は、芥川賞にもノミネートされ大きな注目を浴びました。そもそも文学への興味は以前からお持ちだったのでしょうか。 いや、それがまったく。というのも、僕が子供の頃から慣れ親しんできたのはハヤカワやサンリオのSF、スティーヴン・キングといった作品ばかりで、いわゆる「純文学」と呼ばれるものを一度も読んだことがなかったんですよ。だから文芸誌の編集さんに声をかけてもらった当時は、なかなか踏ん切りがつかなかった。 書こうと決心してからもしばらくは迷走していた気がします。当初は「超能力を持った少年がゾンビと戦う話」とか「架空のスラムで起きるボーイミーツガール」といったストーリーを真剣に考えてましたから(笑)。「岸さんにはそういうの向いていないです」って却下されましたけど。 ――実際に発表され