田山花袋(1871~1930) 群馬県館林に生まれる。本名は録弥。14歳で上京し和歌や漢学を学ぶうち文学者を志す。国木田独歩らと合著「抒情詩」を出版。日露戦争に写真班員として従軍、帰還後に発表した「蒲団」は日本における私小説および自然主義文学の先駆けとなった。他の代表作は「生」「妻」「縁」「田舎教師」「時は過ぎゆく」など。 雑誌社に勤める中年男・杉田の生きがいは朝のラッシュの山手線で可愛い女の子と密接すること。貴重な青年時代を無駄に過ごしたことに後悔もしてみるけれど、時すでに遅し。もう若い娘と恋ができないなら死んだほうがいい、などと憂鬱な気持ちである日電車に乗ると素晴らしく美しい令嬢と遭遇する。女に見とれていた彼は入れ替えラッシュでうっかり手すりの手を離してしまい線路に転げ落ちる。車掌の絶叫も虚しく彼の紅い血は一筋にレールを染めたのだった。 こみ合った電車の中の美しい娘、これほどかれに趣味