元瀋陽支局員 末続哲也 バンクーバー冬季五輪が閉幕した。「五輪」といえば、ずっと気になっていた話がある。 「2008年北京五輪に中国版の松阪牛が登場する」――。確か、こんな内容だったと思う。北京五輪の半年前、中国・大連の地方紙が紙面の片隅に掲載した。大連で牛にビールを飲ませて最高級の霜降り肉をつくり、五輪会場に食材として提供するという。 日本から牛の肥育技術を導入し、高品質牛肉を生産するのは、いかにもありそうな話だ。ただ、解せなかったのは、他の中国メディアを含め、それっきり報道が途絶え、一切の続報がなかったことだった。 気にはなったが、同年3月のチベット暴動や同5月の四川大地震などの取材に追われるうち、調べる機会を逸していた。 昨年末、大連郊外の畜産業者「雪竜産業集団」を訪ねる機会があり、謎が解けた。「あの時、テロを警戒し、ここで五輪用に牛肉をつくっていることは国家機密でした」。同社幹部が