悪しき漢字 アメリカのSF作家であるテッド・チャンは「漢字」というものを嫌っている。彼は表意文字としての漢字をまったく非効率的なコミュニケーションとして非難しており、中国の近代化を妨げ、伝統への固執を生み出している「悪い文字(バッド・キャラクター)」として断罪している1。そして言外に、アルファベットのような、自由かつ柔軟に変化に対応できる表音文字こそ近代を可能たらしめたとほのめかしている。その例として、いびつな形をした中国語のタイプライターや電報を挙げている。漢字は情報テクノロジーの発展にとって常に障害であってきたというわけだ。 この主張自体は別に目新しいものではない。その非効率性を解消しようと、漢字を使用している国でさまざまな解決策が模索されてきた歴史がある。その意味で、「効率化すべきコミュニケーション手段」という認識がテッド・チャンの言語観の基盤をなしており、そしてそこでは「言語」、「