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ブックマーク / musashimankun.hatenablog.com (65)

  • 闇が滲む朝に」🐑 章第14回「忘我の時、全ては満たされると、春香さんは笑った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    プライドが邪魔するとマイナス 徹には図書館館内の喫茶店で、皿やコップを洗う音が聞こえてくる。静粛の中の図書館で、ここだけは少し違う雰囲気を醸し出している。 正面に座る春香さんはコーヒーを飲みほした。 「コーヒー、もう一杯、飲もうか」 「自分はまだありますから、どうぞ」 春香さんは後方のアルバイトに手を上げた。二人の間に沈黙が続いた。 「ゴミの回収なんてってね、やれないって。どうしてもプライドが邪魔するんだなあ」 春香さんがポツリとこぼした。 「プライド・・・・そうですかね。自分が今までに経験したことのない仕事なんで。慣れないというか」 徹が水を飲んだ。 「でも時間的には、それほど長くはないでしょう。今の施設での仕事は」 「ええ。気は使うけど、比較的、業務としては楽な現場だと面接でいわれました。今の会社での他の現場では、主任が自ら定期清掃もやるから結構、機械も操作がむずかしい物を使用したりす

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章第13回「辛い時は戦時下を思え、と春香さんは言った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    図書館であの人に再会 「初心・・・・大事だよなあ、やっぱ」 徹は控室の壁に貼ってある「初心忘るべからず」の言葉を頭の中で反芻しながら「ラッキー園」の外に出た。 午後3時過ぎ、冬の空は晴れているとはいえ、どこかグレーの色合いを漂わせつつあった。この時間帯は「中華・ぶんぺい」には暖簾は掲げられていない。午後5時までは休息時間なのだ。 徹は向かい側の道路に「中華・ぶんぺい」の店舗を見ながら、そのまま真っすぐに●●駅へと向かった。10分も歩けば駅に到着するが、「ラッキー園」で仕事を始めてから、徹は駅近くの図書館に寄ることが増えていた。新聞を読めるからだ。 図書館はまだ建築されてそれほど時間が経過していないのか、新築の匂いがする。館内には学生や主婦や子供、そしてなぜかおじさんたちが多い。おじさんたちには定年した人や失業中の人が混じっているだろうなと徹は思う。 徹はいつものように新聞がストックしてある

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第10回「ぶうん!! ん?突然の五十六の足蹴りに怯む」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    中華屋の客はほとんどが建設作業員 「中華屋・ぶんぺい」はいつの間にか満席になった。客のほとんどが建設作業員だ。 騒がしい中で徹は「ちゃんぽん麺」をすすりながら目を閉じた。熱いのだ。 「弟さん、クリーンモリカミで働いてどれくらいになるんですか」 徹は五十六の顔を見た。 「七八か、さあ、どれくらいかなあ。結構、長いんじゃねえの。『キタキツネビル』で働いているよ」 五十六がぐびっとビールを飲む。 「『キタキツネビル』には面接にいきました」 徹が水を飲む。 「そうか。でかいビルだよな。そこでは仕事してないのか」 五十六がくみ子に手招きすると空のビールグラスを渡した。 「ええ、面接で『ラッキー園』に行くように言われました」 徹が蓮華でスープを飲む。 「そこの高齢者施設だろ」 五十六が徹を刺すような目つきで眺める。 「ええ・・・・」 徹は目をそらすようにラーメン鉢の麺をすすった。 おもしろいか、仕事

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第11回 「夢をバクに食べられたい」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    新年あけましておめでとうございます。 年もよろしくお願い申し上げます。 令和2年 元旦 天野響一 五十六は一体、何者なんだ 徹は目の前で何が起こったのか分からなかった。一瞬、自分はかまいたちに切られたのではないか、顔面の左ほおに強烈な痛みを感じたのだ。あと、ほんの数ミリの差だった。何とか徹の顔は無傷のままだった。 徹は五十六の背中を見ながら、ただ立ちすくむだけだった。 「・・・・・・・な、なんだ一体」 徹はゆっくりと五十六とは逆の方向に歩き始めた。 「キタキツネビル」で働く高戸七八の兄となれば70歳近い年齢の筈だ。しかし、五十六の顔を見ても到底70歳には見えない。もちろん、ついさっき、自分の目の前をぶっ飛びすぎた足蹴りの伸びも、老人といわれる領域の人間の技には見えない。真昼からビールを何杯も飲む五十六は何をやっている人間なのか・・・・・。 徹は信号を渡ると左に進み「ラッキー園」の門を過ぎ

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第9回「昼間からビール三昧の五十六の鋭い眼光にヒヤリ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    昼から生ビールを飲む顔の大きな男 徹は文平の言う、たかど、という名前を聞いたことがなかった。 「たかどさん・・・・ですか」 「確か、『キタキツネビル』で働いているって言ってたな」 顔の大きなベートベン似の男が言った。 「『キタキツネビル』ですか・・・・」 クリーンモリカミは●●市内では「ラッキー園」のほかに「キタキツネビル」や「エゾリスビル」で清掃業務を行っているが、徹は「ラッキー園」でしか仕事をしていないから、「たかど」という人物のことも顔も知らないのだ。 アルバイトのくみ子がベートベン似の高戸五十六に焼き肉定を運んできた。 「ありがちょう、これおかわり」 五十六はくみ子に空になったビールジョッキグラスを渡す。 昼からビールか・・・・いいなあと徹は思う。 「生、おかわりです」 くみ子がグラスをカウンターの上に置いた。 「ちゃんぽん一つ、お願いします」 徹がくみ子に注文した。 「中華屋・

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第8回「ジャジャジャジャーン、ベートベン男と会った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    中華屋で会った顔が大きい男 徹は「ラッキー園」を出ると道の向かい側の「中華屋・ぶんぺい」の暖簾が出ているのを確認した。信号が青に変わったのを確認すると、急ぎ足で歩道を渡る。 「こんちわ」 「中華屋・ぶんぺい」の戸を開ける。ガラガラと音を立てて開いた。まだ中には客は1人しかいない。午前11時40分過ぎ、これがあと数十分もすればいつの間にか満員になる。ほんの20分の差で待たなければいけないか待たなくてすむか。 「どうも、いらっしゃい」 いつもの文平の声が店の奥から聞こえた。昼間は厨房の中に2人、客対応に1人の3人で対応する。厨房の中では文平の・ゆう子、接客はアルバイトの井戸くみ子が手伝っている。くみ子はまだ30歳になったばかりで、店の近くのマンションに住む主婦だ。 もちろん、昼は「中華屋・ぶんぺい」にとって忙しい時間帯だから、いつもこの時間帯はほとんど徹が文平と話すことはない。徹も店に置いて

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第6回。「かえるぴょこぴょこ 、超早口で仕事も早い人」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    仕事も早いが話しぶりも早い人 「とにかく、明日、チェックするから、綺麗に磨くのよ」 明子は話を戻すとお茶を飲んだ。 シングルマザーの飯山伸江も戻ってきた。 「お疲れさまです」 伸江はいつもの早口で言うと控え室奥の自分のロッカーの方に向かう。 「おつかれ」 明子が湯飲み茶わんを両手で支えながら伸江のいるロッカーの方を見た。 「お茶、飲むかい」 カーテンで遮断されたロッカールームで着替え始めた伸江に聞いた。 「あ、今日は大丈夫です。すみません」 「今日はテニスの練習か」 「ええ、すみません」 ロッカーの方から伸江が返事した。 「ノブちゃんも何かと忙しいね。お茶くらい飲んでいけばいいのに」 「また、今度、いただきます」 伸江が奥から出てきた。 「シングルだし、もてるだろうね」 明子が冷やかす。 「いえ、いえ、もう年ですから」 とはいえ、伸江はテニスをやっているせいか実際の年齢よりは若く見える。清

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第7回 「中華屋の文平が宝くじを当てた理由」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    昼飯は中華屋のぶんぺい しばらくして伸江に続き明子も控室も出た。高齢者施設「ラッキー園」の午前中の清掃の仕事はこれで一段落する。午前11時40分過ぎ、徹はクリーンモリカミのスタッフが常駐する控室を出ると、そのまま施設のエントランスへと向かった。 午後からは徹がゴミの回収をする。回収を終えるとこれといった業務は終了する。大型のポリシャーがけやワックス業務などの定期清掃は数か月に数回、土日を使って専門のスタッフが行う。この日、徹は実務は行わないが手伝いをする。つまり、現在の徹の業務は清掃の中では初歩的なものになる。だから、ベテランの明子のチェックが入るのだ。仕事を始めて3か月程度だから仕方ない。 徹は「ラッキー園」のエントランスを出ると歩いて5分ほど先の「中華・ぶんぺい」に向かった。昼はここで中華か、コンビニで弁当を買ってべる。中華店のメニューはまあまあ、うまいといったところだが、何より店

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第4回「渡り鳥のように飛び続けることができるか」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    渡り鳥の飛来に感謝する 徹はカートから落ち葉の入った90ミリリットルのビニール袋を取り出し、高齢者施設「ラッキー園」の庭の隅にある横用具入れ隣のゴミ収集倉庫に置いた。 ピーッ、ピピピ、どこからかツグミの鳴き声が耳に届く。 目の前に広がる青い空と黄色い葉が広がる庭を眺めながら、ツグミはなぜ、日に飛んでくるのかと考えたりする。ま、暇なんだ、ようは。 そういえば、ツグミに限らず、決まって冬になると日に飛来する渡り鳥たちは多い。 徹は若い頃に新潟市内の佐潟でハクチョウを見たことがある。偶然に出かけた湖だった。このハクチョウは冬になるとシベリアやアイスランドから飛来するのだ。ツグミは確か中国あたりからだった。 なぜ、渡り鳥は長い距離を旅することができるのだろう。太陽や月、地場のエネルギーの変化を敏感に察知して移動するらしい。 今年もツグミやハクチョウが変わらずに、日に来てくれることに感謝しなき

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第5回  「綺麗に磨けば心も洗われるのよ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    ひたすら身体を動かし続ける仕事 徹は「ラッキー園」の総務の部屋を過ぎ、奥の小さな清掃員用の休憩所に入った。午前11時、そろそろ明子も伸江も休憩にはいる時間帯だ。 徹の仕事は午前6時から午後3時までと契約されているが、実際には午前中は11時半ごろまでに終わることが多い。そして午後1時から3時まで。この間に、施設の掃除機がけ、ゴミの回収、トイレ清掃、そして庭掃除などをこなす。 清掃の仕事は契約時間の3時間から4時間は、業務を急いでこなしていかなければいけない所が多い。多くが3時間のパートタイム契約だから、これが普通なのだ。身体を使う、いわゆる頭脳労働ではないパートの仕事はとにかく、いそがしいことが多い。 現代の日社会には正規雇用で働ける人は減る一方で、契約かアルバイトが多くなっているが、頭脳労働でない限り、この人たちは、ひたすら肉体を酷使し仕事を継続しなければいけないのだ。 徹の働く「ラッキ

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第3回「人間も冬眠すればいいのに」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    人間も夏眠や冬眠すればいいのに 清掃の仕事の悪さを指摘されるたびに、森木徹は一体、このばあさんどうしたの?と思うくらいに、突然に雷神のような顔に豹変し、睨みをきかす明子を思い出しながら、(・д・)チッと舌打ちする。『ったく、るせいババア』だと思う。 しかし、そんな明子も日ごろは、慣れない徹に、「これべるかい、これ家に持っていくかい?」と、菓子や果物を持ってきたりする。仕事では何かとうるさいが、いつもは優しい人なのだ。 徹が周りを見渡した時に既に、その明子は庭にはいなかった。徹は落ち葉を掃き続けながら、ふと庭中央の池を覗き込む。 夏場は鯉たちが所狭しと池の中を泳ぎ回っているそうだが、冬の時期には、ほとんど水面に鯉の姿を見かけることはない。鯉も亀と同様に冬の間は餌をべなくなる。考えてみたら人間と比べると、鯉やクマや亀はとてもストイックなのだ。 3か月も4か月もべなくてもすむ身体というのは

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第2回「AIの庭掃除ロボットができたら、ますます仕事がなくなるだろうなあ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    やっぱ、人の命を奪う自然は恐い キーンと冷気が張る静かな金曜の午前9時過ぎ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピ・・・銀杏の木々が青空にそびえ立つ園内に、ツグミのさえずりだけが森木徹の耳に響く。徹の3メートル程先に立つ柿の枝々で2羽のツグミが行き交う。園内にはもっと来ている筈だ。徹はあたりを見渡すが、今は2羽しか見当たらない。あの多くの命を奪った台風が嘘のように晴天の空がまぶしい。 自然というのは怖いものだ。人の命を平気で奪っていく。 今後、どんなに人間が素晴らしい物を開発し続けても、宇宙に誰もが行ける時代が来ても、一方では環境を破壊し続けるという行為をやめることはできない。生き残るためだ。こんなに料が豊富で大量の廃棄物が出る国でも、ぼおおっとしていると、他国から侵入され、他の仕事や人間から追い出され、いつの間にか隅においやられる。 生き残るためだ。 地震、台風、火災、温暖化による災害の巨大化・・

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章第1回 「巨大台風が去った秋に、何かが変わろうとしていた」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    一寸先は闇でも、俺は生きている 俺はまだ、こうして生きている。 バイクを降りヘルメットを前の籠に入れながら森木徹は、ぽつりと言う。 9月から10月にかけて日列島をモンスター台風が襲った。 かつて日人が経験したことのない巨大な台風は、ここ数か月、ふさぎ込みがちな徹に追い打ちをかけるように、ビビりさせた。 車がほんの数分たらずで雨水にほとんど沈むなんて考えたことがあったろうか。 家の一階が瞬く間に川の濁流に埋もる・・・。やっと二階に逃げて、ベランダから洪水におびえ、家が濁流に押し流される恐怖を必死でこらえながらSOSのタオルを振る。 人生の黄昏をやっと自宅で過ごせると安堵していたのに、突風に屋根が飛んだ。もう生きていく力さえ萎えて、残っていないと、その人は言った。 たまたま徹の住むマンションの近くには氾濫する川がなかったが、偶然に被害を免れたに過ぎない。 一寸先は闇なのだ。今も徹の脳裏には

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  • 「闇が滲む朝に」第☆章17回(最終回)「人は死なない。苦しみ他界して死者となる」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    あらすじ 片山と良子たちは客の柴田たちを送ると料亭に戻った。 そこで片山が意外な柴田の状況を聞かされる。第☆章の最終回。 客の柴田の意外な容態 「今日、四階に来たお客さん」 ふと良子が言った。 「柴田さん・・・ですか」 片山がボードに記入されていた名前を思い出した。 「そう柴田さん。ご家族でいらっしゃった」 「奥さん、綺麗ですね」 片山が冗談ぽく言った。 「片山さん好み、ゆかりさんみたいな人?」 良子も冗談を返す。 「でも柴田さんね。ガンなの」 良子が話しを戻した。 「だんなさんの方ですか」 「そう、紀夫さんね」 片山は柴田を料亭で初めて見た時、少し痩せ具合が気になっていた。初めて会う人でも何か病的な痩せ方をしている人は、その瞬間に病気だと分かる時がある。 「そうですか、少し痩せているなとは思っていました」 「たぶん、私の旦那と同じだと思う・・・・」 ふと良子が漏らした。片山は良子が結婚

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  • 「闇が滲む朝に」第☆章16回「ただ笑顔で、花束をあなたに」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    料亭「鈴音」での土曜の自動車メーカーの宴会は終了した。続いて4階のお客である柴田の事会も終わろうとしている。片山は女将の良子に頼まれた通り、マーガレットの咲く庭に出て、花を切り始めた。 料亭の庭に咲くマーガレットとコスモス 片山は「鈴音」の外に出ると料亭の右側に回り庭に出た。20メートル四方の庭には白のマーガレットとピンクのコスモスが所狭しと咲き乱れている。片山は一瞬、深呼吸した。ゆっくりと庭に入ると手にしていたハサミで、マーガレットを切り始めた。 「片山ちゃん」 鶴子の声が聞こえてきた。 「そろそろ引き上げるよ。今日は直帰するから」 「お疲れさまです。自分はもう少しいます」 「女将さんから花を頼まれたのかい」 「ええ。10ほどマーガレットを切ってきてって」 片山が目の前のマーガレットを見渡す。 「たまに。渡すんよ。お客さんに」 「そうですか」 「珍しいやろ。こんな場所で花が咲いてるん

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  • Novel「闇が滲む朝に」第☆章15回「マーガレット・・・・花言葉は真実の愛と信頼」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    「鈴音」では自動車会社の客たちの宴会が終わり、片山たちは「ひまわり」の部屋に清掃に入った。今日はもう一軒、客が来ている。4階の「紅葉」には柴田紀夫が家族を連れてきていた。良子は柴田にメニューの説明を始めた。 庭に咲くマーガレットの意味 「鈴音」入口付近が騒がしくなった。次々に2階から客人らしい者たちが下りてくる。良子は玄関で客人たちを見送り始めている。鶴子が清掃用具を持ちながら2階へ向かう。片山も掃除機を左手に持ち続いた。 「じゃあ、今日は洗面とトイレは私がやるから」 鶴子が言う。 「お願いします」 片山が返事をしながら「ひまわり」の部屋に入る。 すでに15人ほどの客たちはもういない。 片山は部屋の隅のごみ箱を次々にまとめた。燃えるゴミ、燃えないゴミとペットボトル、缶、瓶類だ。次に掃除機をかける。それ程、広くない部屋だから時間はかからない。事関連や酒類などは料理人たちがすでに運び出してい

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  • Novel「闇が滲む朝に」第☆章14回「何があっても挫けない、諦めない、思いが現実を作る」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    土曜日の午後2時、片山は「鈴音」に着いた。ビルの中では昼から自動車会社の宴会が開催されていた。今日はもう一件、予約が入っているという。まだ、宴会が終了するまでには時間がある。片山は鶴子と倉庫で立ち話を始めた。九州には台風が上陸し、やがて関東地区にも上陸する恐れがあるらしい。 夏の盛りなのに台風が心配 土曜の日、時計が午後3時になりかけた頃、片山二郎は人通りの少ない◎◎ 駅からの通りを抜け「鈴音」ビルの玄関先に着いた。入口付近の看板の予約看板には2階「ひまわり」の部屋に◎◎自動車会社様、3階「かえで」に柴田様と記入されている。 自動車会社とは別にもう一人客が入っていたのだ。いつも通り入口から外側の倉庫に向かうと、表通りを鶴子が歩いてくるのに気づいた。倉庫は自動車倉庫だから、外に出入りできるように格子状のシャッターが下ろされている。 「お疲れさん」 ビルの内側から倉庫に鶴子が入ってきた。 「お

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  • Novel「闇が滲む朝に」第☆章13回「ある日、自我を捨て奉仕せよと月が言った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    今までなど読む時間がなかった鶴子が、を読みだしたのは最近のことだ。それも時代小説ばかり読んでいた。そんな鶴子は宮沢賢治の「雨にも負けず」の詩のことを、息子から紹介されて気に入ったのだ。鶴子が「銀河鉄道の夜」を読んでいるのは、必ずわけがあると片山は思う。 夜の銀河に魅せられて 鶴子が「銀河鉄道を夜」を読んでいるのは、以前に鶴子の息子に宮沢賢治のことを聞いたことがきっかけになったことは片山にも理解できた。大阪で生まれた鶴子は、新潟で短い期間だが居酒屋を経営していたことがある。不況の影響で店をたたまざるをえなくなったが、居酒屋を営んでいた時期にはなど読むことができなかった程、忙しかったらしい。上京してからは、結婚し家庭を持ったから、なおさらなど読む時間はなかったという。 夫は建築関係の仕事で忙しく、鶴子もパートに出ていたことから、読書する時間などなかったのだ。を読むという行為は、よほど

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  • Novel「闇が滲む朝に」第☆章12回「くふふと笑いながら銀河を旅した日」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    片山は1階に降りると、ビル続きの倉庫に入った。倉庫では鶴子が用具類の整理をしていた。鶴子は良子の様子を聞いてくる。数か月前に体調を崩し1週間ほど休んだのだという。元気そうな鶴子も料亭の女将となると何かと大変なんだと片山は思う。そんなことを考えていると、鶴子がふと「最近、『銀河鉄道の夜』を読んでいる」とこぼした。 ビール飲めるかもよ、くふふ 片山は「なでしこ」で良子から業務連絡表を受け取るとエレベーターに乗り1階に降りた。倉庫に入ると鶴子が用具類を整理していた。 「お疲れさん」 片山に気づいた鶴子が声をかけた。 「お疲れさまです」 「どうだった。なんか言われたかい?」 鶴子が気になる表情を見せた。 「いや、特に。何か用事ありましたか?」 片山がペットボトルのお茶を飲む。 「明日のことさ。私も来るから。昼から宴会やるんやろ。自分は2時ごろに来るわ」 「どこのお客さんなんですか」 「自動車関連や

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  • Novel「闇が滲む朝に」第☆章11回「花言葉は幸福と、人間技を超えたプロレスの力」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    片山は「鈴音」の4階「なでしこ」で良子に業務連絡表を渡した。いつも仕事が終わり次第、良子にサインしてもらうのだ。この部屋は主に良子が仕事をする料亭の事務所になっていた。良子の座る机にはパソコンがおかれ、周りにはが数冊、並べられている。そういえば、片山は以前に平から、良子が百貨店で広報の仕事に就いていたことを聞いていた。 とにかくどんな仕事でも好きになる 「お疲れ様です。明日、悪いけどお願いします。土曜だから、当はお休みでしょう?」 良子が業務連絡表にサインし片山に渡した。 「いえ、土曜はいつも仕事の日が多いですから」 片山は連絡表のサインを確認しながら答える。 「そうなの?でもここはお休みですよね」 「ええ。ここには来ませんが。だいたい午前中は地元で仕事しています」 片山は土曜に地元のツキノワグマビルでの仕事になる。もともと、地元で夕方に仕事ができる場所を探していたのがハイクリーンで仕

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