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ブックマーク / honz.jp (262)

  • 『無人島のふたり』余命宣告された作家の最期の日々 - HONZ

    訃報はいつだって突然だ。著名人が亡くなると、生放送中のスタジオに報道の人間が原稿をもって駆け込んでくる。速報は一刻も早く放送するのが鉄則だが、そこに記された名前に驚き、思わず足が止まってしまうことがある。訃報にあらかじめ心の準備をしておくことなんてできない。誰かの死に慣れることはこの先もきっとないだろう。 山文緒さんが亡くなったという報せも突然だった。 2021年10月13日、膵臓がんのため死去。58歳だった。 山さんは前年、7年ぶりとなる長編小説『自転しながら公転する』を発表したばかりだった。地方のショッピングモールで働く32歳の女性を主人公にした同作はまぎれもない傑作だった。 NHKの『朝イチ』だったと思うが、軽井沢のご自宅で、キツツキが家の外壁に開けた穴をリポーターに見せたりしながらインタビューに答えていたのをおぼえている。その時の楽しそうな表情がとりわけ印象に残っているのは、山

    『無人島のふたり』余命宣告された作家の最期の日々 - HONZ
    akihiko810
    akihiko810 2022/11/02
    山本文緒
  • 『人体の全貌を知れ』を読め! 人体とそれをとりまくサイエンスが如何に素晴らしいかを知るために - HONZ

    こういうを書ける人を心からうらやましく思う。医学や科学についていろいろなところで書いてきたが、まったくレベルが違う。ひとことでいえば、悲しいけれど才能の違いということになるのだろう。それに英語の壁もとてつもなく高い。 著者のダニエル・M・デイビスは英国の免疫学者である。インペリアル・カレッジ・ロンドンの教授で、そのHPを見ると優れた論文をたくさん発表していることがわかる。まだ52歳、現役バリバリ、脂の乗りきった研究者である。とりわけ得意なのはイメージング、いろいろなものを可視化する技術を用いての研究だ。なるほど、だから、このはその内容から始められているのか。 『人体の全貌を知れ』というタイトルからは、このの内容はすこしわかりにくいかもしれない。ごく短い最終章を除いた6つの章で、新しい、文字通りの画期的な技術がいかに開発されたか、そして、その技術が人体を知るためにいかに大きく寄与したか

    『人体の全貌を知れ』を読め! 人体とそれをとりまくサイエンスが如何に素晴らしいかを知るために - HONZ
  • 『捏造の科学者 STAP細胞事件』知ることからしか始まらない! - HONZ

    「青木薫のサイエンス通信」久々の番外編です。今回取り上げたのは、毎日新聞の科学記者・須田桃子さんによる『捏造の科学者 STAP細胞事件』。論文に欠陥が発覚した後、一部の科学者たちの反応に、青木さんは違和感を感じたという。科学史にも残るであろうこの事件、はたして問題の質はどこにあったのか?(※稿は、青木さんご自身のFacebookに書かれていた感想を、そのまま掲載させていただいております。) 私はこれまで、FB上とかで、STAP細胞事件について何か言ったことはありませんでした。バイオ系メディカル系の話題は、ニューヨーカーの記事なんかも好んで読んでいますし、わりと気楽に話題にもしているのですが、STAP細胞事件に関してはーーとくに論文に疑義が出されてからはーーわたしなんかが何か言えるような状況じゃなかったのですよ(まあ、家族に生物系の研究者が二人いるので、うちわでは議論しておりましたが)。

    『捏造の科学者 STAP細胞事件』知ることからしか始まらない! - HONZ
  • 『語学の天才まで1億光年』超絶面白い語学本! - HONZ

    表紙をみて思わず笑ってしまった。1光年は、光の速さで1年かかる距離だ。1億光年は1億年である。にもかかわらず表紙に描かれた人物は、遥か彼方の目的地にのんきにカヌーで向かおうとしている。 だが笑った後で、はたと気づいた。言語の習得というのは、まさしくカヌーを漕ぐような行為なのではないか。前に進むかどうかは自分次第。しかも目標に到達するまで気の遠くなるような時間がかかる。そう考えると、いたく説得力のある表紙にも見えてくる。 書は、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かないを書く」ことをポリシーに、「辺境ノンフィクション」という独自のジャンルを切り拓いてきた著者による語学体験記である。同時に極めて実用的な言語学習の参考書でもある。語学をめぐる面白すぎるエピソードと、現場でとことん使える実用的知識との融合。あまりにユニーク過ぎてちょっと類書が思い浮かばない。唯一無二の語学

    『語学の天才まで1億光年』超絶面白い語学本! - HONZ
  • 『世界は五反田から始まった』足元から歴史が広がる - HONZ

    東京は広い。長いこと住んでいても、まだまだ知らない場所がたくさんある。 著者は東京品川区の戸越銀座で生まれ、現在もそこで暮らしている。著者の家は祖父の代からこの地で町工場を営んでいた。 戸越銀座は五反田から東急池上線なら二駅、都営浅草線なら一駅だ。戸越銀座も五反田もそれなりに知っているつもりでいたが、所詮それはピンポイントの知識に過ぎなかった。書を読むまで、このあたりを面としてとらえるイメージがまったくなかったのである。 戸越銀座と五反田は直線距離でわずか1・5キロほどしか離れていない。この界隈に住む人にとっては、戸越銀座商店街も五反田駅周辺も生活圏なのだ。五反田駅を中心とした半径約1・5キロの円を、著者は〈大五反田〉と呼ぶ。 書は〈大五反田〉の歴史を著者の個人史と結びつけて掘り下げた一冊だ。知らない街や他人様の歴史に興味はないと敬遠するのはあまりにもったいない。実は五反田は、日の近

    『世界は五反田から始まった』足元から歴史が広がる - HONZ
  • 友好的なのが何より大事 『ヒトは〈家畜化〉して進化した──私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか』 - HONZ

    ヒトの進化において「協力的なコミュニケーション」が大きな鍵を握ったであろうことは、たびたび指摘されるところである。人がひとりでできることは限られている。単独で野生動物を狩ろうとしても、得られるのはせいぜいウサギくらいだろう。しかし、ほかの人と協力すれば、わたしたちはシカだって野牛だって狩ることができる。また、ほかの人と情報交換すれば、わたしたちは新たな技術などについて伝えあうことができる。というように、その進化史において、協力的なコミュニケーションはヒトに多大なメリットをもたらしたと考えられる。 しかしそれならば、次のような問いがさらに生じても不思議ではないだろう。ヒトはどうやって協力的なコミュニケーションを行うことができるようになったのか。 書は、その問いに対してひとつの回答を与えようとするものである。そして、書が導き出す回答は、原書のタイトル(Survival of the Fri

    友好的なのが何より大事 『ヒトは〈家畜化〉して進化した──私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか』 - HONZ
  • 『人は2000連休を与えられるとどうなるのか』前代未聞の実験の果てに辿り着いた場所とは……? - HONZ

    連休。なんと甘美な響きだろう。 ラジオの番組作りの仕事は面白いのだが、ネックは休みがとりづらいことかもしれない。先日のゴールデンウィークも、「最大10連休」なんてニュースで伝えながらまるで他人事だった。10日なんて贅沢は言わない。3日間でいいから続けて休んでみたい。 わずか3連休でも羨ましく感じるくらいだから、2000連休なんて桁が違いすぎて想像することすら難しい。著者は6年間にも及ぶ休み(正確には2190連休)を体験した。そこにあったのは巨大な空白だったという。これほどの空白を与えられると、いったい人はどうなってしまうのか。 一見、軽めのサブカルエッセイのようだが、とんでもない。書は世にも奇妙な人体実験の記録である。理系ということもあってか(京都大学工学部卒)、著者の言葉はきわめて精確で、曖昧な表現にとどまることがない。そうした解像度の高い言葉で、自身に生じた微細な変化が記録されている

    『人は2000連休を与えられるとどうなるのか』前代未聞の実験の果てに辿り着いた場所とは……? - HONZ
  • 『政治学者、PTA会長になる』これぞ街場の民主主義!政治学者が世間の現実と向き合った1000日の記録 - HONZ

    「その悩み、○○学ではすでに解決しています」みたいなタイトルのを見かけることがある。あなたが日々の仕事で直面する悩みや課題は、すでに最新の学説や理論で解決済みですよ、というわけだ。 だが当にそうだろうか。最新の学説や理論を応用すれば、世の中の問題はたちどころに解決するものだろうか。 著者は政治学を専門とする大学教授である。「話すも涙、聞くも大笑いの人生の諸々の事情」があって、47歳にして人の親となった。小学校のママ友やパパ友のほとんどは干支一回り以上年下だ。そんなママ友からある日「相談があります」と呼び出され、いきなりこんなお願いをされた。 「来年、PTA会長になってくれませんか?」 まさに青天の霹靂だ。驚いた著者は必死に出来ない理由を並べ立てる。「フルタイム・ワーカー」だから無理!「理屈っぽくて、短気で、いたずらにデカいジジイ」だから無理!ところがママ友は決してあきらめず、最後は情に

    『政治学者、PTA会長になる』これぞ街場の民主主義!政治学者が世間の現実と向き合った1000日の記録 - HONZ
  • 「他人の価値」から自分を取り戻す『当事者は嘘をつく』 - HONZ

    すごいが出た。 いきなりであるが、このの最後の文を紹介したい。 でも、その窮屈な型を破って、新しい型を生み出すサバイバーがきっと出てくる。私の語りの型は、誰かの生き延びるための道具となり、破壊され、新しい型の創造の糧になる日を待っている。(200ページ) この締めくくりの文に、このの性格が表されている。性暴力のサバイバーである著者は、さまざまなを読み、勉強し、考えることで生き延びてきた。血まみれになりながら知識を身につけてきたと言えるだろう。そして、彼女だけの創造する力を得てきた。引用のとおり、このは著者の小松原さんが得た力を、また別の人に渡すために書かれたである。 私がの中で驚いた箇所がふたつある。ひとつは、読書のしかただ。文中に、ジャック・デリダの『言葉にのって』の「赦し」に関する部分を小松原さんが読んだときのエピソードが出てくる。小松原さんは、この部分を読んだとき、耐え

    「他人の価値」から自分を取り戻す『当事者は嘘をつく』 - HONZ
  • 『言葉を失ったあとで』耳を傾け言葉を引き出す 「聞く」ことのプロの対話 - HONZ

    最高の聞き手同士が対話をするとどうなるか。書はその希有な例である。他人から話を聞くプロである2人が、「聞く」ことの実際を語り合った。 著者の1人である信田さよ子は、カウンセリングの第一人者。原宿に開業したカウンセリングセンターを訪れる人々の話に耳を傾け、依存症やDV(ドメスティックバイオレンス)、児童虐待などの問題にいち早く取り組んできた。 もう1人の著者、上間陽子は、沖縄で未成年者への聞き取り調査を続け、10代で若年出産した少女たちへの支援活動も行う研究者だ。2020年に出版したエッセイ集『海をあげる』が高く評価され、複数の賞を受賞したことは記憶に新しい。 上間にとって信田は、その仕事が臨床心理学への信頼のベースになっているほど尊敬する先達だ。実際に話をすると、信田が感心しながら話を聞いてくれるのに驚いたという。屈託なく肯定してくれるので、なんだか自分がいいことを話しているような気にな

    『言葉を失ったあとで』耳を傾け言葉を引き出す 「聞く」ことのプロの対話 - HONZ
  • 過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』 - HONZ

    過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』 この『ゴーイング・ダーク』は、イスラム聖戦主義者やキリスト教原理主義者、白人のナショナリストや極右の陰謀論者、過激なミソジニストたちの組織など、12の過激な主義主張をかかげる組織に著者が潜入したさまをつづるルポタージュである。 潜入が実施された期間はおおむね2017年から18年にかけての2年間で、その間に著者はオンライン活動への参画を中心としながら、そうした組織の裏側でどのような活動や勧誘が行われていて、彼らがどんな思想を持っているのかをつぶさに見ていくことになる。 著者が潜入するのは初心者にもハッキング講座を施してくれる、親ISISのハッキング組織から白人ナショナリストなど過激な思想を持つもののみが参加できる特殊なマッチングサイトまで様々だが、そこには共通する人間の傾向や勧誘の手口が

    過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』 - HONZ
  • 『反逆の神話〔新版〕: 「反体制」はカネになる 』カウンターカルチャーへの愛憎相半ばする複雑な気持ち - HONZ

    反体制はカネになる。ん、どういうことだ?、違和感があると同時に居心地が悪い。だって、反体制の人たちはおカネよりも大切なもの、例えば、自然とか文化とか、コミュニティとか、スタイルとか色々とあるから。儲かることや経済とは一線を画して、独自路線を進んでいるのであって、おカネや儲かるという言葉とは縁遠いはずだ。 だけど、読み終えると、そんなやわな考えは吹き飛んでしまう。反体制が儲かることに納得せざるをえない。オーガニック品、カウンターカルチャー、スローフード、反グローバリズムなどのオルタナティブな活動がどのように経済的に成立しているのか、豊かな生活を発信することを可能にしているのか、その舞台裏を覗きにいくようなものだ。喉の奥に長年刺さっていた魚の小骨がぽろっととれたような、すっきりとした読後感がある。 なぜ反体制とカネがつながるのか、スケートボートを事例に筋道を踏んでいく。2021年の東京オリン

    『反逆の神話〔新版〕: 「反体制」はカネになる 』カウンターカルチャーへの愛憎相半ばする複雑な気持ち - HONZ
  • 『差別はたいてい悪意のない人がする』特権という厄介で見えにくいことを考える - HONZ

    差別はつねに、差別によって不利益をこうむる側の話である。差別のおかげで知らぬうちにメリットを得る側の人が、自ら立ち上がって差別を語ることはしない。ただ、よーく考えれば、差別される側になる可能性があるのであれば、差別する側になることだってあるはずということに気がつける。 「もうすっかり日人ですね」 「希望を持ってください」 この2つの声がけは一見褒めていたり、励ましていたりする言葉のように見える。だが、前者は国外から日移住した人たちに、後者は障害者に対する代表的な侮辱表現の例としてあげられる。このように日常の会話の中に、悪意のない差別が潜んでいる。 特定の言葉を口にしないよう、注意すればいい。それだけではすまない。このような言葉がなぜ侮辱することにあたるのかを理解しなければならないのだ。実はその方法はそこまで難しくない。当事者に聞いてみることだ。 著者は、移民,セクシュアル・マイノリテ

    『差別はたいてい悪意のない人がする』特権という厄介で見えにくいことを考える - HONZ
  • 海外ノンフィクション全集を作ろう!@本の雑誌2021・9月号 - HONZ

    屋大賞ノンフィクション賞はじめ、ここ数年ノンフィクションを読む人が増えてきた。でもよくわからないのが海外ノンフィクション。いったいどんな作品があって、どんな風に面白いの?というわけでの雑誌のノンフィクション好き代表の杉江由次が、HONZの東えりかと誌でノンフィクション新刊レビュー担当の冬木糸一に声をかけた。無謀にもジャンル別50冊を語りつくすという。はてさてどんなラインナップになったやら…。 杉江 二十一世紀版海外ノンフィクション全集を編もうという座談会なんですけど、とりあえずジャンル別であげていきましょう。いちおう〈自然科学〉〈事件〉〈文化人類学〉〈冒険〉〈その他〉の5ジャンルを設定しましたが、もっといい分類があれば変えてもらってかまいません。 冬木 自然科学なら、サイモン・シンは一冊は入れておきたい。やっぱり『フェルマーの最終定理』ですね。                    

    海外ノンフィクション全集を作ろう!@本の雑誌2021・9月号 - HONZ
  • 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』は、こわいもの知らずのぶつかり稽古だ! - HONZ

    『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』は、こわいもの知らずのぶつかり稽古だ! 自民党総裁選のニュースが連日報じられている。前回に比べれば、四人が立候補して政策論戦が交わされているのは望ましいことだ。しかし、報道はいつもどおり、政治内容そのものよりも政局に偏っている。政治は何のためにあるのか。それこそが重要問題であるはずなのに、真っ正面から問われることはあまりない。 ライターの和田靜香が、立憲民主党の衆議院議員である小川淳也にそれを問う。ん?誰やねん、その和田靜香と小川淳也って?と思う人がほとんどだろう。失礼ながら、確かに有名とは言いがたい。だからといって、面白くないとは限らない。それどころか、これほど活き活きして、わかりやすく、そして、魂に触れる政治対話はこれまでに読んだことがない。 和田靜香は湯川れい子のアシスタントになったのをきっかけに音楽ライターに

    『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』は、こわいもの知らずのぶつかり稽古だ! - HONZ
  • 『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』まず自分の靴を脱ぐこと 足元から世界を変えていく - HONZ

    著者が今、最も旬な書き手であることを確信させられる一冊だ。世界を覆う社会的なテーマを生活者として語り、解決のヒントを暮らしの中に見出す。そのスタンスや主張は数年前からさほど変わらないはずだが、時代が追いついてきた印象もある。 ブレイディみかこ氏が作で選んだテーマは「エンパシー」。これは他者の感情や経験などを理解する「能力」を指す。エンパシーは「意識的に他者の立場で想像する作業」すなわち「他者のを履く」試みでもあり、その点で、共鳴する相手やかわいそうに思う相手に向けて心の内側から湧いてくる「シンパシー」と異なる。そして、能力であるエンパシーは、訓練によって向上させることができる。 書では、この抽象的な概念が身近なトピックを通じて語られ、骨太なテーマへと昇華されている。エンパシーはどのようにすれば向上させられるのか、優秀な女性指導者とエンパシーに関係はあるのか、サイコパスとエンパシーの関

    『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』まず自分の靴を脱ぐこと 足元から世界を変えていく - HONZ
  • 歴史の影で忘れ去られていた女性暗号解読者たちの活躍に光を当てるノンフィクション──『コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち』 - HONZ

    歴史の影で忘れ去られていた女性暗号解読者たちの活躍に光を当てるノンフィクション──『コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち』 近年、ロケットのための計算に明け暮れていた女性たちを描き出したノンフィクション『ロケットガールの誕生』や、ディズニー初期の女性アニメータたちの活躍を取り上げた『アニメーションの女王たち』など、歴史の影で見過ごされてきた女性たちの活躍を取り上げるノンフィクションが増えてきている。今回紹介したい『コード・ガールズ』も、第二次世界大戦中にアメリカ軍に所属し暗号解読に従事した女性たちの活躍を取り上げた、流れに連なる一冊だ。 第二次世界大戦時に暗号解読分野で女性が活躍していたという話は、書を読むまでまったく知らなかったが、実は1945年にはアメリカ陸軍の暗号解読部門1万500人のうち、約7000人、つまり70%ほどが女性だったし、海軍にも4000人もの女性暗号

    歴史の影で忘れ去られていた女性暗号解読者たちの活躍に光を当てるノンフィクション──『コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち』 - HONZ
  • 薬物依存症のイメージが根底から覆されたぞ『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』 - HONZ

    『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』(みすず書房)は、アディクション(嗜癖障害)治療を専門とされる松俊彦医師によるだ。少なくとも私にとってはかなり衝撃的な内容だった。薬物依存に抱いていたイメージが大きく覆された。ほとんどの人も、読めばきっとそうなるだろう。 自伝的な語りを軸に、経験に基づいた考えが綴られていく。自ら進んだ道ではない、「左遷」かとも思えるような命令により依存症専門病院に赴任させられたことがきっかけだった。そこで出会った強面の覚せい剤依存症患者に「クスリのやめ方を教えて欲しい」と言われたことが出発点になった。 松医師の基的な考えは「覚せい剤というのはそんなに悪い薬物なのか」ということにつきる。「覚せい剤は幻覚や妄想を引き起こし、暴力事件を起こす。だから危険なのだ」という一般的な考えは、「薬物使用者を危険な精神病者としてゾンビやモンスターのように描く薬物乱用防止

    薬物依存症のイメージが根底から覆されたぞ『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』 - HONZ
  • やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか? - HONZ

    やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか? アバウトにしてアナーキー。ざっくりまとめるとこうなるのだろうか。なんだかやたらと凶暴でハードボイルドな室町時代。日人は律儀で柔和などという言い方は絶対に通用しない。室町時代の後半は戦国時代だったから、というわけではない。武士たちだけでなく、農民や女性、僧侶までもがなんだか殺気立っているのだ。まずは『びわ湖無差別殺傷事件』から。 びわ湖がくびれていちばん細くなっているところ、琵琶湖大橋のかかっている西側に堅田という町があった。というか、今もある。そこに兵庫という名の青年がいた。“他の堅田の住人と同じく、周辺を通行する船から通行量をとったり、手広く水運業を行ったり、場合によっては海賊行為を働いたり“ と、とんでもない多角経営を営んでいた。湖なので、海賊ではなくて湖賊だが、まぁ、それはよ

    やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか? - HONZ
  • 『実力も運のうち 能力主義は正義か?』今も広く容認される偏見 学歴という「功績」の横暴 - HONZ

    「運も実力のうち」という慣用句はよく聞くが、「実力も運のうち」というのはどうだろう。「実力」という言葉はフェアに聞こえるが、それが単に「生まれ」という「運」による幻想にすぎないとしたら。 そうした不都合な真実に切り込んだのが、米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による書である。原題は“The Tyranny of Merit”、直訳すれば「能力の専制」だが、巻末の解説によれば“merit”の原義は日語の「能力」よりも「功績」に近いという。 つまり、この原題が表しているのは「功績、とくに学歴という結果によって人生が決まってしまう能力主義(メリトクラシー)という仕組みの横暴」となる。 「学歴」は、ある人がその大学に入学できたという能力の証であり、功績でもある。しかし、現実を見れば、ハーバード大学の学生の3分の2は所得で上位5分の1に当たる家庭の出身だという。にもかかわらず、彼らは自分が

    『実力も運のうち 能力主義は正義か?』今も広く容認される偏見 学歴という「功績」の横暴 - HONZ