生きていくのは、たいへんだ。 学生のころ想像していたほど、社会は厳しくなかったけれど、想像していたよりもずっと、おれには根性がなかった。 だからやはり、生きていくのはたいへんで、小説や、音楽、写真、漫画、そういったものはおれを助けてはくれなかった。 それは、彼らのせいではなくて、単に自分がそうしたものに救われるような種類の人間ではなかったということだ。 おれの父母は、この世の不正義にたいして、まっすぐに怒ることのできる人間だったけれど、おれはそうした人間でもなかった。 真・善・美のいずれにも興味がない。なにもかもがどうでもよいのだった。おれには損得勘定しかないのだった。 おれに心の平安を与えられるのは、預金通帳の残高だけであった。 しかしながら、意識の低いサラリーマンのであるおれの稼ぎでは、臆病なおれの心を安心させるだけの残高をつくることはできなかった。 株に手を出したのは、少しでも早く安