◆「国民栄誉賞」を受賞した王貞治~父親は関東大震災を生き延びた中国人青年 大島の青田県出身者の宿舎全てが襲われたわけではないので、無事に生き延びた人もいる。その一人が、王仕福という小柄な若者だった。彼は前年に青田県から来日し、建設現場で働いていた。いつも工夫を忘れない知恵者だったという。 震災から5年後、彼は日本人女性と結婚する。中華料理屋を開き、自らの祖国と妻の祖国の間で戦争が続くなか、4人の子どもを育てた。成長した末子はその後、野球の道に進む。それが、王貞治である(鈴木洋史『百年目の帰郷』小学館、1999年)。 王貞治の国籍は今も中華民国だが、彼が「戦後日本のヒーロー」であることを否定する人は一人もいないだろう。だがその王の父が、あのとき「中国人だから」という理由で殺されずに済んだのは、偶然にすぎない。 日本の歴史は、「日本民族」だけの歴史ではないし、私たちがよく知る現代日本も、「日本