2022年7月15日のブックマーク (2件)

  • 天涯の声 ブロニスワフ・ピウスツキへの旅 第2回|岩波書店のWEBマガジン「たねをまく」

    ヴォルガ河と知取川 芙美子を乗せた汽車は、午後3時ごろ知取(しるとる)駅に着いた。現在のマカロフである。 マカロフは、私が乗っている寝台急行サハリン号の最初の停車駅だ。時刻表を見ると、到着するのは午前2時46分。外の景色は見えない時間だ。私は芙美子に訊く。あなたの見た知取は? 知取の町は豊原よりにぎやかかも知れません。それに第一活気があって、まるでヴォルガ河口の工場地帯のようでした。灰色の工場の建物はやや立派です。煙が林立した煙突から墨を吐き出しているようなのです。ここでは新聞紙やマニラボール、模造紙、乾燥パルプをつくっています。 (林芙美子「樺太への旅」より) ヴォルガ河とはずいぶん壮大なたとえに思えたが、芙美子は想像で言っているわけではない。大陸を横断してパリへ行ったとき、シベリア鉄道の車窓から実際にヴォルガ河を見ているのだ。樺太への旅の3年前、1931(昭和6)年11月20日のことで

    天涯の声 ブロニスワフ・ピウスツキへの旅 第2回|岩波書店のWEBマガジン「たねをまく」
  • 梯久美子 天涯の声 ブロニスワフ・ピウスツキへの旅 第1回| 岩波書店のWEBマガジン「たねをまく」

    あらゆる列車は歴史の上を走る。 バラストが砕けて砂になり、枕木がコンクリートに替わり、レールが敷き直されても、それらを支える地面は変わらずそこにある。そして、自分の上を通っていった者たちの物語を記憶するのだ。 生きかわり死にかわりしながら、軌道の上に見えない層をなす人々。そこをまた別の人生が駆けてゆく。 小学生のころ、母親くらいの年齢の知らない女の人と、汽車に乗り合わせる夢を見た。その人はむかしこの汽車に乗っていて、いまはもう死んでいるのだということを、夢の中の私は知っている。だが私は怖くなかった。少し離れたボックスシートに座り、車窓の景色を眺めていた。 10歳かそこらだった私が、鉄道で旅をすることの質をすでに体験していたことに、いまになって驚く。死者とは「むかし生きていた人」のことだ。その彼/彼女たちと、時空をこえて、つかのま、同じ軌道をゆく。身体がここではないどこかへ運ばれている間、

    梯久美子 天涯の声 ブロニスワフ・ピウスツキへの旅 第1回| 岩波書店のWEBマガジン「たねをまく」