「サラゴサ手稿」訳者の畑浩一郎さん。手にするのは原著のペーパーバック版=東京都渋谷区 作者はポーランドの貴族ヤン・ポトツキ(1761~1815)。現在のウクライナで生まれ歴史家として活動する傍ら、ヨーロッパの共通語だったフランス語で長大な物語を書いた。物語は18世紀の終わりに書き始められたが、その全体像が定かになったのは21世紀に入ってからだ。 「サラゴサ手稿」はスペインの山中をさまよう若き騎士アルフォンソを主人公にした奇想天外な物語だ。彼が行く先々で出会う人物たちの語りが次々と挿入されていく「枠物語」の形式で、突如として現れる美しき姉妹がほのめかす彼ら一族の秘密が、大きな謎として読者を引き付ける。 枠物語の系譜としては、「千一夜物語」やボッカッチョの「デカメロン」に連なるが、「サラゴサ手稿」の特徴は「物語のなかで別の物語が語られて、そのなかでまた別の物語が語られる」という階層状の構成にあ