真に異常と呼ぶべき現象が起こるのは、この直後である。私は最初、自分の目がおかしくなったのかと疑った。思わず何度も瞬きをして、両目を擦り、左右の瞼を順番に瞑ってみて、ようやく自分の視界に何が生じているのか、ほとんど戦慄にも近い感覚とともに、まだ全面的にではないが、理解した。(中略)それは普通の二重写し=オーバーラップとは、明らかにどこか違っていた。もっと見えにくいのだ。一方をしかと見ようと意識すると、もう一方が見えなくなってくる。そしてやっと気づいた。3D眼鏡の左目と右目には、異なる画面が映し出されていたのだ。こればかりはこの映像を見てしまった者にしかわかるまいが、それはおそろしく奇怪な体験だった。 佐々木敦『ゴダール言論』新潮社,2016年,71頁 引用したのは佐々木敦によるジャン=リュック・ゴダール監督『さらば、愛の言葉よ』についての文章である。 ゴダール作品を多少なりとも見たことがない
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