ひさしぶりにスーツを買うことにした。ふだんは月に一、二度くらいしか着ないスーツだが、もうすぐ社外のわりと大事なお客さんに会う予定があることと、手持ちのスーツがどれもくたびれてきたこともあって、そろそろ背広でも新調しようかしら僕、という気持ちになっていた。 スーツそのものに思い入れはない。基本的には、べつになんでもいいのである。3万円均一でスーツを売っている店があって、ちょっとよさげなので、そこで買うことにした。値段も手ごろだし、ちょうどいいのではないか。そう考えて店へ向かう。キュートな女性店員が、ファルセットをきかせた声で「いらっしゃいませ」とわたしを歓迎する。とりあえずはいくつか試着してみることにした。店員の女性は、これは裾がブーツカットでかっこいいとか(スラックスの裾がブーツカットってどういうあれだ)、こっちはステッチが凝っていて洒落ているとか、いろいろと商品を勧めてくるが、なんだかぴ