もしもある物語が語られるのならば、その物語に登場する人物あるいは世界が、なんらかのかたちで「回復」されようとしなければならない。 回復のための手段や過程、その成否、ありようは、作品によって異なる。むしろ、その差異の際立たせ方こそが、作家の腕の見せ所である。 物語で回復が最終的に達成されない場合、それは悲劇(あんなに頑張ったのに報われないなんてかわいそう)、喜劇(そもそもこの人物は笑えるほど狂っていた)、あるいは不条理劇(ゴドー〈人間性〉はいつまでたっても現れない)になる。 ──サミュエル・ベケット、演劇『ゴドーを待ちながら』、1952年 (Marty Rea / Aaron Monaghan in “Waiting for Godot”, a play by Garry Hynes, 2018, Photo by Matthew Thompson.) 道中でどんな展開があろうとも、マリオは