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ブックマーク / honz.jp (154)

  • 『いつまでも美しく』 - HONZ

    装丁の写真に写る少女は輝く大きな瞳と、笑った口元からのぞく白い歯がとても魅力的だ。その瞳、その笑顔はまだ、自らが何者かになれるという確信と希望に満ちているように感じられる。自らの立ち位置とその存在の小ささを現実という絶望から叩きつけられたことのない、幼き者だけが持つことの許される独特な輝きに満たされている。だが、彼女が顔を出している建物は、さびたトタンと棒切れを打ち付けただけの窓が存在する粗末な小屋だ。 このノンフィクション作品はインド、ムンバイの空港近くにあるアンナワディというスラムに生きる、フセイン家とワギカー家の人々を中心にして、グローバル経済の中で広がる格差、チャンスの不平等、貧困、そして、政治、行政機構の腐敗という問題を私たちに見せてくれる。それも著者のキャサリン・ブーという存在をまったく感じさせることなく、小説でも読むような感覚で。 訳者の説明によると、このような手法は「イマ-

    『いつまでも美しく』 - HONZ
  • 『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』上級ミステリー本 - HONZ

    書は、国民的大ベストセラー辞典の「生みの親」に光をあて、これまで注目されてこなかった国語辞典の誕生秘話を解き明かす一冊だ。 合わせて累計4000万部に迫る驚異的な発行部数を記録する『新明解国語辞典』と『三省堂国語辞典』。辞書として最も有名な『広辞苑』の発行部数が1200万部であるから、これら二冊はそれ以上ないしは同等の部数を誇っていることになる。驚くのは、この隠れた大ベストセラーがなんと東大で同期生、山田忠雄(山田先生)と見坊豪紀(ケンボー先生)によってそれぞれ編纂されていることだ。同期生から辞書界の二大巨星が生まれることになるとは、なにか運命のいたずらを感じざるをえない。 二人は、もともと力を合わせて『明解国語辞典』という国語辞典を作っていた。ところが、ある時期を境に決別し、それ以降、お互いに一切口をきかず、それぞれ同じ出版社から全く性格の異なる二冊の国語辞書を生み出すこととなる。二人

    『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』上級ミステリー本 - HONZ
  • 挑め!世紀の難問『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』 - HONZ

    学問においていちばん大事なのは、問題をどう解くかではない。どのような問題を設定するかである【アルキメデス】。 アルキメデスが言ったというのはウソだけど、どういう問いかけをするかが重要というのはホントである。このが問いかけるのは、ドーナツを穴だけ残してべることができるか、という哲学的命題だ。この、まったくどうでもいい問題を聞いておもしろがれるかどうか、で、人類を二分することができる。 この人類にとっての超難問に対して、大阪大学の教員たちが堂々と名乗りをあげた。13名それぞれが専門を武器に立ち向かう真の学際的アプローチだ。なかには、その論考のどこがこの問題に関係しとんねん、と言いたくなるのもないわけではないが、そういった牽強付会というのも学者につきものの性癖なので、がまんしてあげましょう。 そこは気にせず、いくつかのすぐれた論考を紹介しよう。まずは数学者。数学者の思考はやはり違う。 “そも

    挑め!世紀の難問『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』 - HONZ
  • 『縄文人になる!』こんなことできちゃうよ - HONZ

    このタイトルとカバーの写真……縄文人に「なる」といきなり言われても、いったい? 緊張感があるような、まったくないような、私もよくわからない。のだけれど、淡々と縄文人のライフ・スキルを紹介するこの一冊、まったくもって気なのである。 サブタイトルに「縄文式生活技術」とあるが、章ごとに「火」「石」「角」「土」「木」「衣」「」「住」と分けられており、それぞれに実践のための細かい技術が書き込まれている。実践と言われても困るかもしれない。すべてを紹介したいところだが、字数に限りもあるので、「火」の章の内容、「原始の火を起こす」を少し紹介してみよう。 なにはともあれ、先ずは火がなくては、始まらない。べることも、暖を取ることも、火によって大きく変わったのだ。 古代発火技術研究の第一人者、和光大学の岩城正夫名誉教授によると、縄文時代は、木と木を摩擦させての「回転摩擦式発火法」で火を起こしていたそう

    『縄文人になる!』こんなことできちゃうよ - HONZ
  • 『殺人犯はそこにいる』この国の正義を問う - HONZ

    現在、HONZが怒涛のキャンペーンを張っている作品がある。それが書、『殺人犯はそこにいる』だ。野坂美帆。内藤順。仲野徹。さらに、マンガHONZの山田義久もそれぞれの立場から書をレビューしている。また、栗下直也が著者インタビューを行っている。 ここまでレビューされているのだから、もういいじゃないか?そんな思いも少しはある。しかし、書にはそれでもなお、書かずにはいられない何かが存在するのだ。 発端は著者の清水潔が日テレビの報道特番のプロジェクト上司から与えられたことだ。 著者は、新プロジェクトの為に、未解決事件を調査する。そこで浮かび上がったのが、栃木県足利市、群馬県太田市という隣接する2市で5人の幼女が誘拐され、4人が殺害され、1人が現在も行方不明という事件。まさに未解決連続幼女誘拐殺人事件だ。 だが、問題がひとつある。半径10キロ圏内で、誘拐場所の多くがパチンコ店、死体遺棄現場が

    『殺人犯はそこにいる』この国の正義を問う - HONZ
  • 究極の私ノンフィクション『セラピスト』 - HONZ

    最相葉月さん、やっぱりうまい。いまさらながら感じ入った。『絶対音感』以来、大ファンなのである。こういうのは言い続けているといいことがある。一年半ほど前、元阪大総長である鷲田清一先生が最相さんと対談された時、ファンであることをご存じであった鷲田先生が、その後の事に誘ってくださった。(対談録はこちら:pdf) 対談は『わが心の町 大阪君のこと』というエッセイの話からはじめられた。無名であったといっていいころの堺雅人と、いまはどうしているのか真中瞳で『ココニイルコト』という映画になった名エッセイである。次に鷲田先生が尋ねられたのが、どうして、絶対音感や、東大応援団、青いバラ、生命倫理、星新一など、脈絡がないほどにいろいろなテーマ、それも、誰も論じていないテーマに挑んでいかれるのか、ということであった。 『私自分の仕事をそんな風に褒められることが無かったので、当にすごくここに座りづらいんですけ

    究極の私ノンフィクション『セラピスト』 - HONZ
  • 『教誨師』 死刑囚と向き合い続けた男 - HONZ

    教誨師とは、拘置された死刑囚と唯一面接できる民間人である。面接を望む死刑囚と対話し、ときに悔悟を促し、教え導く役割を負う。そしてさらに、面接を続けた死刑囚の刑の執行にも立ち会うという、過酷な任務でもある。 無報酬の「仕事」であり、多くの場合、牧師や僧侶など宗教家が、その役割を担う。そんな過酷な仕事をタダで誰がやるのか、と疑問が起こるが、宗教家にとって「教誨師」という肩書は「まことに美しい響きを持っている」そう。新興宗教もある程度組織が整うと教誨活動を申し出るのだという。 ただし、書に登場する教誨師、浄土真宗の僧侶である渡邉普相は、そんな肩書に惹かれて教誨師になったわけではない。昭和30年代、浄土真宗の世界では知る人ぞ知る、型破りな僧侶であった篠田龍雄という教誨師に、自分の仕事を継いでほしいと言われたのだ。広島で被爆して多くの死を目の当たりにし、その後売春婦救済の社会貢献活動に取り組みたい

    『教誨師』 死刑囚と向き合い続けた男 - HONZ
  • あらすじだけでも知ってほしい本がある 『種痘伝来』 - HONZ

    地味といえば地味な学術書である。はっきり言って4千円は高いし、ほとんどの人は買おうと思わないだろう。しかし、こののあらすじは知っておいて損はない。江戸時代の知識階級のレベルがいかに高かったがよくわかる。 天然痘は感染力が強く、致死率も高いおそるべき伝染病である。いや、その撲滅が人類によって成し遂げられた唯一の疾患なのだから、『であった』が正しいのかもしれない。17世紀、すでに中国では、弱毒化した天然痘を人為的に接種する『人痘』がおこなわれていた。ヒトに感染する天然痘ウイルスを用いるのであるから、当然、死ぬこともあった。 天然痘で死ぬ子供の方が人痘で死ぬ子供より多い、そして、自然発症よりもコントロールが容易である、ということから人痘がひろまっていったらしい。もちろん、日でも天然痘が猛威をふるうことがあった。しかし、伝わりはしたものの、中国式人痘が広まることはなかった。命というものについて

    あらすじだけでも知ってほしい本がある 『種痘伝来』 - HONZ
  • DNAこそが知っている『殺人犯はそこにいる』ことを - HONZ

    出版されるやいなや、タイムラインには読み巧者たちによる絶賛の言葉がならんだ。しかし内容は重そうだ。まずはウォーミングアップにと、前作『桶川ストーカー殺人事件-遺言』を読んだ。そこには、桶川事件について抱いていた漠然としたイメージとはまったく違うドキュメントがあった。 そしてこの。読み出すと文字通り止まらなかった。ここにもおぼろげに知っていると思っていた『足利事件』とはあまりに違うストーリーがあった。報道、それも、バイアスのかかった初期報道によって、いかに『確証バイアス』が作られてしまっているかを痛切に感じた。 内容については内藤順のレビューがあるから繰り返すこともないだろう。ここでは著者の清水潔氏が書くのに難しかったというDNA鑑定を中心に紹介してみたい。そこをうまく理解できないと、このの核心はつかめない。 最初に断っておきたいのは、現在のDNA鑑定法は、個人の同定においてほぼ完璧であ

    DNAこそが知っている『殺人犯はそこにいる』ことを - HONZ
  • 著者インタビュー『殺人犯はそこにいる』清水潔氏 - HONZ

    79-96年に北関東で5人の少女が殺害、行方不明になった事件。この5つの事件に連続性を見出し、真犯人に迫ったのが書だ。5件の事件のひとつが「足利事件」。著者はDNA型鑑定に着目した調査報道で、服役していた菅家利和さんの冤罪の立証を支えた。一方、DNA型鑑定に注目したことで、九州で2人の女児が殺害された飯塚事件の判決にも疑問を持ち、取材に乗り出すが、そのことで当局が長年ひた隠しにしてきた衝撃の事実にぶちあたる。彼らが守ろうとしたものは何なのか。 著者の清水潔さんは、足利事件だけでなく、99年に起きた桶川ストーカー事件で警察よりも容疑者を早く割り出し、警察による被害者の告訴もみ消しをスクープしたことで知られる。05年には海外逃亡した強盗殺人犯を追跡しブラジルで発見したこともある。多くの記者が一生をかけてもひとつもモノに出来ないようなスクープを、10年あまりで3も放つ凄い人物。実際、帯には「

    著者インタビュー『殺人犯はそこにいる』清水潔氏 - HONZ
  • 『殺人犯はそこにいる』 - 真犯人への挑戦状 - HONZ

    ただならぬタイトルの裏側には、ただならぬ闇が潜んでいた。地を這うような調査によって、ドミノ倒しのように明かされていく衝撃の事実。報道という武器を駆使して次々に繰り出される手技。それでも事態は動かない。「真実」への道のりは、ここまで遠いものか。そして「当たり前」のことを当たり前のように行うのは、ここまで難しいものか。 北関東連続幼女殺人事件は、栃木県足利市、群馬県太田市という隣接する2市で、5人の少女が姿を消した事件である。犯行は半径10キロという限定された地域で複数年おきに行われており、誘拐現場の大半がパチンコ店、そしてほとんどの遺体が河川敷で発見されるなど共通項は多いものの、犯人は未だに逮捕されていない。 事件を時系列に並べると、以下のようになる。 1979年 栃木県足利市 福島万弥ちゃん  5歳 殺害 1984年 栃木県足利市 長谷部有美ちゃん 5歳 殺害 1987年 群馬県尾島町 大

    『殺人犯はそこにいる』 - 真犯人への挑戦状 - HONZ
  • つなげる、つながる京の小商い 『街を変える小さな店』 - HONZ

    ノンフィクションファンの人たちにとってHONZが恐ろしいのと同じ意味において、私は恵文社一乗寺店が怖い。 関西地区では、そのイメージキャラおねえさん『おけいはん』で知られる京阪電鉄。その終点の出町柳は、比叡山方面へ向かう叡山電鉄、いまだにICカードを導入していない奥ゆかしき小さな私鉄、の始発駅でもある。 ワンマン電車にとことこ揺られて三つ目の駅が一乗寺。駅員さんもいない小さな駅で下車すると、曼殊院道といういかにも京都らしい名前の道がある。小さいながらもちょっと正しい商店街になっていて、魚屋さんや酒屋さん、和菓子屋さんに、なんと、なつかしの駄菓子屋さんまでならんでいる。 心うきうきそぞろ歩いて3~4分のところに、知る人ぞ知る恵文社一乗寺店がある。何平米とかはわからないけれど、決して大きくはないワンフロアの屋さんである。しかし、のセレクションと並べ方がすごいのである。 おぉ、こんなところに

    つなげる、つながる京の小商い 『街を変える小さな店』 - HONZ
  • 『海賊旗を掲げて』海洋ノマドとしての海賊 - HONZ

    黒地に髑髏とクロスボーンをあしらった海賊旗(ジョリー・ロジャー)を高らかに掲げ、木造帆船を駆使して大海原を闊歩する海賊。最近では漫画『ONE PIECE』や映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』が世界的なヒットを飛ばしている。体制に反抗しながら、お宝を追い求める男たちの物語に多くの人々が何かしかのロマンを感じているのだろう。その一方ソマリアなどで繰り返される海賊行為に世界経済は大きな打撃を受け、かつその残虐な手口に怒りを覚える人々も大勢いるのではないだろうか。 海賊は欧米などではアナーキストやラディカルな思想を持つ政治運動家や学者などの人々から支持を集める存在であるようだ。書は海賊という現象の歴史と革命性をラディカルな思想的立場から見た内容である。ただし、行き過ぎた海賊讃歌にならないよう非常に公平に海賊を捉えようとしている。 私個人としては性格的な問題だろうか。どちらかというと保守に近い性

    『海賊旗を掲げて』海洋ノマドとしての海賊 - HONZ
  • 『野生のオーケストラが聴こえる』 音の来た道 - HONZ

    思い返せば、自然の音を一番聴いていたのは、たぶん小学生の時だった。だからだろうか、書を読むと懐かしい気持ちになる。そして旅に出たい気持ちになる。 目で観るのが風景ならば、耳で聴くのは「サウンドスケープ(音風景)」だ。サウンドスケープは「ある瞬間にわたしたちの耳に届くすべての音」という意味で、1960年代後半にカナダの作曲家マリー・シェーファーが作った言葉だ。 書の著者は、自然のサウンドスケープを初めて採用したアルバム『In A Wild Sanctuary』を1968年に発表した専門家で、40年以上も自然を録音し続けてきた。そのコレクションは、生物の数にして15000種類以上、時間にして4500時間以上に及ぶ。 もともとはスタジオギタリストとして音楽業界でキャリアをスタートし、フォークバンド『ウィーヴァーズ』のメンバーとなった。バンドの解散後、『ビーヴァー&クラウス』を結成、アナログシ

    『野生のオーケストラが聴こえる』 音の来た道 - HONZ
  • 『本を愛しすぎた男』 - 本の外側に書かれた不可視な物語 - HONZ

    一口に好きと言っても、大きく分けると二つのタイプが存在する。それはの中身にしか興味がないか、それとも外側にも興味を持つかということである。僕などは好きを自称していても典型的な前者のタイプなので、フェティッシュに外側のことを熱く語られると、敵わんなという思いを常に抱いてしまう。 後者のタイプの際たるものが、稀覯(きこう)と呼ばれるコレクターの世界であるだろう。その歴史は古く、17世紀のイギリスにまで遡ることが出来る。それ以降この世界は、「希少性」「重要性」「の状態」という3つの組み合わせを基準とし、数多くの愛書狂によって支えられてきた。 1930年代のアメリカでは、植物学の教授が大量のを買い付けたあげくその重さが90トンにも及び、自宅建物の最大荷重をオーバーしてしまったという記録が残されているという。また1830年代のスペインにおいては、稀覯を巡る殺人事件も起きている。殺人犯は

    『本を愛しすぎた男』 - 本の外側に書かれた不可視な物語 - HONZ
  • 『花火のふしぎ』 - HONZ

    今年も、花火の季節がやって来た。書は「ハナビスト」こと花火写真家の冴木一馬さんによる花火解説である。 冴木さんは、講演会などで必ず「花火は平和の象徴である」と言っているらしい。書にもその記述がある。2011年現在、国連加盟国は192カ国だが、そのなかで花火が開催されているのは約30カ国だ。さらに、個人がお店でおもちゃ花火を買えるのは15カ国くらいしかない。販売時期が限られている国もある。ということで、おもちゃ花火を自由に買って遊ぶことができるのは日の特徴で、平和の象徴なのだ。 小学校の頃、夜になると学校のグラウンドでおもちゃ花火をやった。ねずみ花火とか、パラシュートとか、なんか、ブーンって飛ぶやつとか。最後を飾るのはロケット花火だった。懐中電灯のまわりにカナブンが飛んできた。そうか、海外にはあまりないのか。 書は “サイエンス・アイ新書” の一冊で、花火の種類や作り方、打ち上げま

    『花火のふしぎ』 - HONZ
  • 『自然を名づける―なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか』 分類学の進化 - HONZ

    世界は名前であふれている。 街ゆく若者が凝視する手のひらサイズの四角い機械には「スマートフォン」、鋭い目つきでゴミをあさる黒い鳥には「カラス」、体毛がほとんどなく出歯のネズミには見たままの「ハダカデバネズミ」という名前がある。これらの名前はもちろん、自然に授けられたものではなく、ヒトによってつけられたものである。名前のないものを見つけることが難しいほどに、ヒトはあらゆるものを分類し、命名してきた。世界を分類し命名することは、ヒトのDNAに組み込まれた能なのかもしれない。 それではヒトは、この分類し命名する能を抱えて、どのように世界と対峙してきたのか。人類の誕生以来能に任せて行っていた分類と命名が、学問へと昇華したのは18世紀。古典物理学がアイザック・ニュートンの『プリンキピア』から始まったように、生物の分類学はカール・リンネの『自然の体系』から始まった。書はリンネがどのように生物界

    『自然を名づける―なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか』 分類学の進化 - HONZ
  • 『医師は最善を尽くしているか』何が改善に繋がるのか - HONZ

    アフガニスタン・イラク戦争。治安は未だ改善せず相変わらず散々たる状況であるが、医療の面では歴史的とも言える偉業が成し遂げられている。戦闘で負傷した兵士の死亡率が、これまでの実例と比べて大幅に改善しているのだ。第二次世界大戦が30%、朝鮮戦争は25%、ベトナム戦争は24%、湾岸戦争は24%の兵士が死亡しているなか、今回はたったの10%である。 朝鮮戦争以降、半世紀もの間ほとんど進歩がなかったこの分野において、今回米軍医療部隊はどのようにしてこの快挙を成し遂げたのか。前回の湾岸戦争と比べ、医療機器や医療技術の革新はほぼないし、今回の戦争では医療スタッフの確保に苦労していたくらいなので、新しいテクノロジーや軍医の才能が大幅な改善を生み出したとは言えない。では一体、何が偉業達成の鍵だったのか。 この快挙の秘密に迫るのは、現役の外科医、ハーバード医科大学教授、クリントン元米国大統領の上級アドバイザー

    『医師は最善を尽くしているか』何が改善に繋がるのか - HONZ
  • 『白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻』 文庫解説 by 服部 文祥 – HONZ

    個人的「山野井泰史」史 この解説は難しい。私も登山家などと呼ばれているが、山野井泰史とは登山家としての器に差がありすぎて、解説の執筆は自分の小ささを強調することになりかねない。ただ、通り一辺倒のことを書いてお茶をにごすなら、私が書く必要はない。個人的なことになるが少し付き合っていただきたい。 我々の世代で登山を志す者にとって山野井泰史は物のスーパースターだった。 もちろん私も憧れた。大学で山登りを始め、その世界に魅せられて、山野井泰史のようになりたいと思っていた。だが、人生のすべてを捧げるほど、登山や自分の才能を、信じることはできなかった。大学卒業と同時に就職して「まともな社会人になる」というのは、日教育が長年かけて強固にすり込む世界観の1つである。学歴社会全盛期の受験戦争をかろうじて生き残ってきた大学生の私にとって、その世界観を否定するのは難しかった。そして、卒業の見込みが立った年

    『白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻』 文庫解説 by 服部 文祥 – HONZ
  • 『証言 陸軍中野学校 卒業生たちの追想』背広を着たスパイたち - HONZ

    ルバング島の任務で話していないことがたくさんある 2008年(平成20年)5月、都内の病院のカフェテリアでのインタビューで、小野田寛郎が筆者にもらした一言である。しかし、その先は同伴者に遮られて聞くことが出来なかったという。 書は日陸軍において「諜報、謀略、宣伝、防諜」のノウハウを教えていた「陸軍中野学校」の卒業生たちの証言集である。存在したのは日中戦争期から太平洋終結までのわずか7年余り。当時は一般には知らざれておらず、隣にあった憲兵学校の生徒ですらそこがどんな施設か知らなかったという。彼らは戦時中であっても、外出時に背広姿を崩さなかった。 戦後68年を経て、生存者は少なくなるばかりである。ほとんどは90歳をこえ、病を抱えたり認知症によって何もわからなくなっていたりする。 しかしごくわずかではあるが、両親や家族にも隠していた任務や真実を、最後に明かしたいという人の声にこたえ、著者の斎

    『証言 陸軍中野学校 卒業生たちの追想』背広を着たスパイたち - HONZ