「命を犠牲にするしか」包丁持ち役所へ 盲目の80歳男性、社会への怒り募り…高齢の粗暴犯、表面化しづらく 社会面の片隅にベタ記事が載った。〈役所で包丁持ち/暴れた80歳男逮捕〉。動機は何か。自宅を訪ねると、サングラス姿で現れ、取材に応じるという。「自殺しに行ったんですよ」。声には怒りが満ちていた。 外出には白杖(はくじょう)が手放せない。15歳の時、草野球をしていてバットが目を直撃した。それでも悲観せず、26歳で鍼灸(しんきゅう)マッサージの店を開いた。妻を亡くしてからも身の回りのことは1人でこなし、穏やかに暮らしてきた。 怒りが募り始めたのは、5年ほど前に難聴を発症し、命綱の耳が聞こえにくくなってからだった。家にこもりがちになる一方、火事にでもなれば逃げ遅れるため、一軒家から公営住宅へ移ることにした。そのあたりから怒りが沸騰しだした。 入居手続きが煩雑で職員の説明も不親切に感じられた。「高