書くといふこと部屋の窓を開けて外を眺めていると、わたしはここから飛び降りることを脳内でシミュレートすることが多い。窓の下には駐車場、つまりアスファルトで舗装された黒くて冷たくて無機質な固い地面が見える。8階といえば、だいたい地上から30mくらいだろうか。人が飛び降りて死ぬには必要にして十分な高さである。わたしは高所にのぼって下を見下ろしたときに感じる、あの地面の遠さ、耐えられないほどの距離に、眩暈でくらくらするほどの恍惚を感じる。東京タワーの展望台にある、下方が透けて見えるガラス張りの床をのぞきこんだときのような気分。高所から見る地面は、ふだんわたしがふつうに地上に立って見ている地面とは、まったく異なった顔をもって迫ってくる。なにかとてつもなく、凶悪かつ獰猛な何かを秘めているようにみえてきて、ゾクゾクとしてくるのである。飛び降りたい。物理学における自由落下の法則によれば、空気抵抗を考慮しな