立憲主義を蹂躙する「護憲派」 ――憲法の話に戻りましょう。井上さんはかねて9条問題をもとに護憲派と改憲派の双方の欺瞞を指摘してきました。近著『立憲主義という企て』でも9条問題に多くの記述が割かれています。「立憲主義」とは安倍政権を反面教師に「憲法は権力を縛るもの」という説明が一般的にも広がりましたが、いま立憲主義をあらためて世に問うた狙いは何でしょう。 日本の市民や政治家だけでなく、知識人の間でも、立憲主義の真っ当な理解は浸透していません。 立憲主義の基礎には「法の支配」の理念があります。自由な論争を認めた民主社会では、何が「正しい法」なのかをめぐって熾烈な争いがある。自分が不当と考える政治的決定でも、新たな競争ラウンドで覆せるまでは、自分たちの社会の公共的決定として尊重するという態度をとらなければならない。反対者をも拘束するその規範の基礎となるのが、先ほど(参照『ポピュリズムやパリテに抱