その場所を訪れたのは、10年ぶりだった。フィリピン・ルソン島の首都マニラから北へ車で約6時間、パンガシナン州スアル市バキアン村。観光客など皆無のその村の、海を見晴らす丘の上に、通称「子どもの家」がある。日本人とフィリピン人が共同で作り上げた児童養護施設だ。 10年前、NPO法人Caring for the Future Foundation Japan(CFF)主催の「ワークキャンプ」に参加した。このワークキャンプは、日本人約20名とフィリピン人の青年たちが2週間、衣食住を共にしながら「子どもの家」の建設作業を行うというもの。汗と泥で真っ黒になりながら砂袋を運んだり、セメントをこねたり。貧困の中で生きるフィリピン人と語り合い、それまで全く知らなかった価値観を学んだり。太平洋戦争の戦場となったルソン島で、学校では習わなかった歴史の一端を目の当たりにしたり。体と頭と心を駆使した非日常的な体験を
「ワークフェア」とは、work(労働)とwelfare(福祉)を組み合わせた言葉だ。ただ、使われ方は2種類ある。 まずは福祉を受ける条件として労働を義務づけるというのが一つ。生活保護の受給者に対して、公共事業などで仕事をする義務を課すものだ。この考え方は米・ニクソン政権時に公民権運動によって白人以外への福祉が急拡大し、財政が維持できなくなった時期に登場した。働けば収入が増加するため、就労インセンティブが働き、次の仕事につながるのが長所だ。 もう一つの「ワークフェア」とは、「仕事で生きがいを感じる」ためのものだ。つまり、就労こそが最大の福祉である、という考え方であり、具体的には職業訓練に注力する政策で、スウェーデンなど北欧で行われている。職業訓練などで知識労働者を多く生み出すことに注力した結果、スウェーデンの1人あたりGDPはトップクラスになった。 しかし1980年代には機能した職業訓練を行
インド南部マドライ(CNN) ナラヤナン・クリシュナンさん(29)は8年前、高級ホテルチェーンの若きシェフだった。その腕を認められ、スイスで一流の仕事を得るチャンスを目前にした帰省先で、飢えた老人男性の姿を目にしたことが転機となった。 クリシュナンさんは02年、欧州行きを前にインド南部マドライ市内の寺院を訪れていた。老人は橋の下で「自分の排せつ物を食べていた」という。「その姿を見た時、本当に心が痛んだ。文字通り衝撃を受け、次の瞬間には男性に食べ物を提供していた。そして残りの人生をこれに費やそうと決心したのだ」と、クリシュナンさんは振り返る。 心に焼きついた光景に突き動かされるように、クリシュナンさんは仕事をやめて故郷に腰を落ち着け、新たな使命に取り組み始めた。精神障害などで自立が困難な貧困層に、救いの手を差し伸べたい。そのために03年、「アクシャヤ・トラスト」という非営利組織(NGO)を設
ワシントン(CNN) 米ロック歌手ジョン・ボン・ジョヴィさんがオバマ米大統領に任命され、地域社会問題の解決に一役買うことになった。 オバマ大統領は14日、ホワイトハウスの「コミュニティーソリューション評議会」を設置する大統領令に署名。ボン・ジョヴィさんはネットオークション大手イーベイのジョン・ドナホー最高経営責任者(CEO)、スターバックスのエグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント、ポーラ・ボッグス氏などと並んで委員に選ばれた。 同評議会は企業家や非営利組織(NGO)指導者などの委員25人で構成され、地域社会の問題解決や活性化を目指す。 ボン・ジョヴィさんはロック歌手としてアルバム1億2000万枚以上を売り上げる傍ら、政治活動や社会活動にも力を入れ、自らが会長を務めるジョン・ボン・ジョヴィ財団を通じて貧困対策、ホームレス支援、低所得者への住居提供などの活動を行ってきた。 委員に選ばれたことを
預金を引き出して銀行を潰せば真の無血革命になる──スーパースター、エリック・カントナの呼びかけに支持が急拡大 エリック・カントナは矛盾に満ちた男だ。 サッカー選手として超一流のキャリアを築いた一方で、野次を飛ばした相手チームのサポーターに飛び蹴りを見舞って話題をさらったこともあった。 引退後は俳優に転じたが、映画『エリックを探して』では自分自身の役で登場。さらに億万長者でありながら、フランスを代表する貧困撲滅活動の顔でもある。 90年代にマンチェスター・ユナイテッドで活躍した伝説的な背番号7は、イギリスで最も愛されるフランス人でもある。数々の劇的なゴールを決めてファンを魅了したカントナを、イギリス人は今も「キング・エリック」と愛情を込めて呼ぶ。 そのカントナが今、「革命を呼ぶ男」として再び注目を浴びている。 フランスでは10月上旬、ニコラ・サルコジ大統領の年金制度改革法案に反対する人々が連
貧困層の希望 マイクロファイナンスを利用して、ムンバイのスラム街でアクセサリーを作る仕事を始めた女性(2010年10月) Danish Siddiqui-Reuters 銀行融資を受けられない貧しい人々にとって、マイクロファイナンス(無担保小口融資)は貧困から抜け出すための希望の光。貧困層向けに1口数百ドルの融資を専門に行う金融機関は、今や途上国だけでなく欧米でも大きな成長を遂げている。 しかし、マイクロファイナンスの市場規模が65億ドルを超えるインドで、この融資事業は深刻な危機に立たされている。震源地は、こうした融資を受ける貧困層の3分の1が暮らす南部のアンドラプラデシュ州。州政府は10月、マイクロファイナンス事業者に対する厳格な新規制を施行。貸出金利に上限を設け、週1回の返済期日を月1回に改め、返済は政府が定める場所で行うことを義務付けた。 規制強化の背景には、一部業者による悪質な貸し
蛯谷敏 日経ビジネス記者 日経コミュニケーション編集を経て、2006年から日経ビジネス記者。2012年9月から2014年3月まで日経ビジネスDigital編集長。2014年4月よりロンドン支局長。 この著者の記事を見る
低所得者層など社会的弱者が住む地域で商店街などが閉店し、生鮮食料品の供給体制が崩れて買えなくなってしまう現象を「フードデザート」(デザートは“砂漠”の意)と呼ぶ。そもそもは1970年代後半にイギリスでできた言葉で、単純に「買い物ができない」というだけではない。偏った食生活から低栄養状態となり、自立度の低下や要介護度の上昇を引き起こすことになり、さらには貧困や差別、社会的な孤立を生み出す要因として問題視されているのだ。 日本でも、買い物に遠出ができない高齢者が多く居住する地域でこの現象が広がっている。イギリスでフードデザートが起きた最大の原因は、規制緩和で大型店の郊外出店が加速したことだった。日本のシャッター商店街はイギリスのフードデザートがピーク時にあったときよりもひどい状況だ。 茨城キリスト教大学文学部准教授の岩間信之氏は、「フードデザート問題の背後には、深刻な弱者切り捨ての構図がある」
2008年度の「全国学力テスト」を受けた公立小学校の6年生について、文部科学省の専門家会議は09年8月、学力と経済力の調査結果を公表した。学力が高ければ本人の学歴にプラスに反映するのは自明の理。それを裏返せば、経済力のない家庭の子どもの学力は相対的に低く、学力の低さはそのまま低学歴につながることになる。参照の図のように母子家庭や父子家庭の親が抱える悩みの1位「教育・進学」が2位以下を圧しているのもそれを強く裏付けている。経済力のない親が子どもの教育や進学について自覚的に悩みを抱えているというのなら、まだ救いがあろうというものだ。 東京都江戸川区で福祉事務所のケースワーカーを中心とした区職員の有志が無料で週2回、中学3年生に勉強を教える「江戸川中3勉強会」。過去5年間の参加者は123人で、公立・私立の全日制に74人、定時制に44人、通信制の高校に5人を進学させている。特徴的なのは、参加者の4
不況に悩むベネズエラの若者は、安く手軽に楽しもうとある場所に殺到しているようだ。 「ラブ通り」と呼ばれるベネズエラのパンアメリカーナ・ハイウエーには、「ホテル・ラスベガス」や「ホテル・黄金の森」といった看板が立ち並ぶ。こうしたラブホテルを利用するのは、記念日を祝ったり秘密の情事にふけるカップルだけではない。 学生や若い会社員など実家暮らしをする人々にとっても、こうしたホテルは強い味方だ。不動産価格の高騰や年間31%にも上るインフレのせいで、中には結婚後も独立できず、実家を出られない人もいる。 「私の世代であれば、結婚したら程よい価格のアパートを購入するのが当たり前だった」と、約40年前に妻と住宅を購入したという経済学者のペドロ・パルマは言う。「今のベネズエラでは、カネが掛かり過ぎて夫婦で暮らすことさえ難しい」 ベネズエラのホテルは週末のたびに大盛況で、入り口前に車が列を作るほど。首都カラカ
ワーキングプアは641万人=給付付き税額控除提言−厚労省研究班が初の推計 ワーキングプアは641万人=給付付き税額控除提言−厚労省研究班が初の推計 働いているのに貧困層に属するワーキングプアが、2007年時点で推計641万人に上ることが1日、厚生労働省研究班(代表・阿部彩国立社会保障・人口問題研究所部長)の調査で分かった。現役世代(20〜64歳)の男性労働者の9.85%、女性労働者の13.39%が該当し、深刻な雇用環境が裏付けられた形だ。 ワーキングプアの概数を明らかにした研究班の報告は初めて。阿部氏は低所得者に限定した給付付き税額控除が貧困解消に効果的だとした上で、必要な予算額も試算した。 調査は厚労省の「国民生活基礎調査」のデータを基に、学生のアルバイトや主婦のパートなどは除き、一日の主な活動を「仕事」とした人の世帯所得額を抽出。年金や公的扶助の収入を加味した上で、貧困層に属する人
合弁会社設立について説明するグラミン銀行のムハマド・ユヌス総裁(左)とファーストリテイリングの柳井正会長兼社長=13日午後 東京都千代田区の帝国ホテル(撮影・早坂洋祐) カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは13日、グラミン銀行と提携し、バングラデシュで10月に現地向け衣料品を企画・生産・販売するための会社を合弁で設立すると発表した。 ビジネスを通じて貧困や衛生、教育など社会的課題の克服を目指す「ソーシャルビジネス」の一環。衣料の普及や雇用創出で、貧困からの自立を促す。 ファーストリテイリングが提携するグラミン銀行はバングラデシュで無担保・低金利で融資する「マイクロ・クレジット」を展開。同国の貧困層の救済にあたっている。9月にソーシャルビジネスを展開するための現地法人を設立、合弁で「グラミン・ユニクロ」を10月に設立する見通し。 資本金は10万ドル(約900万円)
2010年4月1日、安徽省太和県李興鎮の程寨村で程保平という85歳の老人が餓死しているのが発見された。貧困のために結婚もできずに程保平の世話をしていた1人息子の程好山が3カ月前の1月に60歳で病死した後、程保平は誰からも忘れられ、2年前に火事で焼けた自宅の跡に建てたバラックの中で空腹を抱えたままあの世に旅立ったのだった。 病死した程好山には900元(約1万2000円)の現金が残されていたが、村役人はこれを程好山の葬儀費用として使い果たしただけでなく、その父親が存命であることも失念したため、程保平はなんらの保護を受けることもなく、誰からも見取られることもなく、一人寂しく孤独の死を迎えたのだった。程保平が餓死した責任を追及された村役人は平然と「(世話をするべき)子供が(死んで)いないのが悪い」と述べたという。 3カ月交代で息子たちが世話することになったが それから8日後の4月9日、北京市通州区
火付け役 「石油価格を引き下げろ」などと書いた看板を掲げる野党BJPのデモ隊(7月5日、ニューデリー) Mukesh Gupta-Reuters 7月5日、ムンバイにはいつもと違う光景が広がっていた。慢性的な大渋滞が消えた市街の道路で、子供たちが路上でクリケットを楽しみ、バイクが悠々と交差点を突っ切っていく。この日、燃料価格引き上げに抗議して野党勢力主導の全国的なストが行なわれたのだ。 最大野党のインド人民党(BJP)や左派系勢力が計画し、中間・低所得者層が参加したこのストで、企業や学校は閉鎖され、地上と空の交通が麻痺。全国の都市で暴力沙汰が起き、数千人が逮捕された。 政府は6月、財政赤字削減という公約を守るため、石油会社への補助金の打ち切りを決めた。この結果、燃料価格は6.7%上昇。既に2桁に達しているインフレ率をさらに1%押し上げると見られている。インディア・トゥデー誌によると、数種の
大陸初のW杯開催の名の下に行われた都市部の強引な「再開発」。スラムさえ追われた貧困層は、さらに劣悪で見えない場所に隠されている おこした火は消えかけている。見守るビクター・ガンビの目が悲しい。 ここは南アフリカ最大の都市ヨハネスブルク。改装されたエリスパーク・スタジアムの裏に隠れた空き地だ。このスタジアムは、6月11日から始まるサッカーのワールドカップ(W杯)会場の1つ。南アフリカ政府は、この世界最大のスポーツイベントで多くの国民が貧困から脱け出せるとうたってきた。 しかし日雇い労働者のガンビ(35)に言わせれば、状況は悪くなる一方だ。南アフリカが第19回W杯の開催地に決まると、程なくして彼らの暮らす競技場周辺地域にも「再開発」の波が押し寄せた。外国からの観戦客を受け入れる準備の一環だった。 彼が不法居住していた廃ビルは昨年後半に壊された。今は廃墟の一角に粗末な小屋を建てて暮らしている。地
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