“自分が生きているうちかどうかは分からないけど、これからおそらく、自分が働く時間とか、どんなことをしたいかとか、選択した上で、年収が200万円、という人は増えると思います(……)200万円の中から買わせるのはなかなかのことだと思う。よほど自分のものに力がないと、売れていかない。そういう意味で、年収200万円の人にでも欲しくなるものを作らないといけない” (木村衣有子『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』亜紀書房より。以下の引用も同じ) 千葉県・九十九里にある「左藤吹きガラス工房」の左藤玲朗さんの元に、文筆家の木村衣有子さんが何度も通って書かれた『はじまりのコップ』には、一風変わった工芸作家の生き方と考え方が描かれている。「年収200万円でも欲しくなるもの」という言葉から窺えるリアリティと、相反するような夢想や妄想を語るガラス作家の姿は、自らが作り出す器の繊細さと無骨さにも重なってい