慶応義塾大学日吉キャンパスで講演するアニー・エルノーさん。左は堀茂樹さん=2004年、堀さん提供 あえて僭越(せんえつ)な言い方をするなら、アニー・エルノーは私にとって「旧知の」作家である。彼女のノーベル文学賞受賞の報に接した直後、私は自分の古い個人ファイルの中に、A4六枚をホッチキスで留めた簡易文書を見つけた。勿論(もちろん)、身に覚えがある。題して「翻訳企画。アニー・エルノー、証言としての文学」。日付は「一九九二年二月」。約三〇年前である。 当時日本でエルノーは未(いま)だまったく無名だったが、私は早川書房宛てのその企画書で、彼女の一九八四年度ルノードー賞受賞作品『場所』、八八年一月刊行の『ある女』、そして、フランスで発売されたばかりだった『シンプルな情熱』の概容(がいよう)を紹介し、大型ではないが質が高いと力説していた。性愛に埋没した自分を語る『シンプルな情熱』も含めて、この作家は「
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