ブックマーク / book-review.sakura.tv (96)

  • 「狙われたキツネ」ヘルタ・ミュラー: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    1989年12月、チャウシェスク政権が崩壊。 「狙われたキツネ」は、革命前夜のルーマニアを描いた作品。 以前にも読んでいたが、ヘルタ・ミュラーが昨年、ノーベル文学賞を受賞したこともあり、新装版が発刊されたので再読。 ふたりの若い女性、教師のアディーナと工場で働くクララの姿を通して、独裁政権下の日常が描かれる。 上司に睨まれたアディーナは秘密警察の影に怯える。一方、クララの愛人は秘密警察の男。 ここでは誰もが猟師で、誰もがキツネになる。 栄養失調でイボだらけの指をした子どもたち。一方で独裁者は毎朝新品の服を着る。その不条理の世界では、絶望が風景まで変容させる。 大輪のダリアはキッチンや寝室を監視する。公園の空気にも恐怖がたちこめ、空はこの街を捨てて遥かな上空に出ていく。ひからびた日常を生きるうち、この国がドナウ川で遮られ、自分たちが見捨てられていることも当然と思えてくる。 不幸と絶望が、現実

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    e_tacky 2010/10/20
    「独裁者が消えても、われわれ自身の中にも、その残酷さの種はあるのだと指摘されているように感じ、幸福とは、豊かさとは何かと考えずにはいられない」
  • 「読むことは旅をすること―私の20世紀読書紀行」長田弘: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    先日、朝のワイドショーで取り上げられていたが、今、著名人の墓が、一部で流行っているらしい。 この「読むことは旅をすること」は、海外の詩人や文学者などにゆかりの地を訪ね歩いた読書にまつわる紀行文。直接・間接に戦争や革命の犠牲となった人々も多く、彼らの墓を探し訪ねる旅を綴った文章も多数収められている。 つまり、紀行文とは言っても、「戦争と革命の世紀」と呼ばれた20世紀に生き、国家の暴力に抗して言葉の力で闘った人々の足跡をたどる旅だ。 国家や時代とどう向き合うべきか――文学者たちの鎮魂とともに、今に生きる我々への問いかけでもある。

  • 「読むことは旅をすること―私の20世紀読書紀行」長田弘: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    先日、朝のワイドショーで取り上げられていたが、今、著名人の墓が、一部で流行っているらしい。 この「読むことは旅をすること」は、海外の詩人や文学者などにゆかりの地を訪ね歩いた読書にまつわる紀行文。直接・間接に戦争や革命の犠牲となった人々も多く、彼らの墓を探し訪ねる旅を綴った文章も多数収められている。 つまり、紀行文とは言っても、「戦争と革命の世紀」と呼ばれた20世紀に生き、国家の暴力に抗して言葉の力で闘った人々の足跡をたどる旅だ。 国家や時代とどう向き合うべきか――文学者たちの鎮魂とともに、今に生きる我々への問いかけでもある。

  • 「タルト・タタンの夢」近藤史恵: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    「タルト・タタンの夢」は、下町の小さなフレンチの店が舞台のミステリー連作短編集。店で話題にのぼった謎を、無口なオーナー・シェフが料理を手がかりに鮮やかに解き明かしていく。7編が収録されている。 常連である西田さんは、なぜ体調を崩したのか? 甲子園出場をめざしていた高校野球部で起こった不祥事の真相は? お客の恋人は、なぜ最低のフランス料理をつくったのか? 従業員たった4人という小さな店で出される料理や飲み物の描写も、ビストロで働く人たちの姿も、ともに温かく、ほのぼのとした安らぎを与えてくれる一書。

  • 「告発」鬼島紘一: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    旧国鉄用地を独占せよ――ゼネコン首位の座を目指し、難波組は国鉄OBを中核に、特別チームを発足させた。 彼らは鉄道用地管理公社にい込み、入札に関する内部情報を巧みに入手、次々に落札を成功させていく。 だが、設計技師の黒崎健三は上司の手柄話の端々から公社との癒着を疑いだす。 やがて彼の下した決断とは……。 談合、天下り、癒着といった構図が生々しく活写された、臨場感あふれる経済ミステリー。

  • 「戦争を知るための平和学入門」高柳先男: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    米ソ冷戦が深刻化した50年代に、戦争の原因を突きとめ平和の諸条件を探究する“平和研究(平和学)”が生まれた……らしい。 恥ずかしながら浅学にして、初めて「平和学」なるものがあることを知った。 それだけでも書を手にした価値があったというもの。 「平和学」の現在は、70年代のデタントやイラン・イラクなど第三世界の軍事化、またボスニアなど民族のアイデンティティーをめぐる紛争や、開発至上主義による途上国の貧困化が研究対象になる。 日の開発援助も視野に入れ、「下から」の、「民衆」の視点に立つ研究のあり方を追究した著者の講義をまとめた一書。 ブログ内の関連する記事:3件 「われらはみな、アイヒマンの息子」ギュンター・アンダース (2007年10月24日 17時51分)「人間の暗闇―ナチ絶滅収容所長との対話」ギッタ・セレニー (2007年03月16日 18時05分)「神々の戦争」大高未貴 (2006

  • 「魂丸」阿井渉介: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    魂丸は大井川港所属の漁船。 出漁中、小型船に接触してしまった。直後に大型船が現れ、甲板から銃撃された。 乗客に事故の様子を証言させようとするが、逃亡を図ろうとし、さらに暴力団らしきグループから追撃を受ける。 客は密入国者らしい。しかも仲間を蛇頭から救いたいようだ。シャチのあだ名を持つ主人公は手を貸すことに。が、逃避行は困難また困難……。 海の男の血潮たぎる魂を骨太に描いた長編アクションだ。

  • 「私は日本のここが好き!」加藤恭子編: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    この「私は日のここが好き!―外国人54人が語る」では、副題にもある通り、54人の外国人が、自分が日を好きな理由や体験を語っている。 例えば中国から日に来て20年という姚南さんは、電車の中で後ろの女性の先を踏んでしまった時のエピソードを。すぐ謝ると、その女性はほほ笑んで「先は空いているから大丈夫ですよ」と。 また、オーストラリアのスコチッチさんは、ある春、モノレールを利用した。同じ年の秋にまた来日した時、春の利用時にチケット代が過払いであったと150円入りの封筒を渡されたという。 やはり日が好かれるのは、美しい自然・景色・歴史はもちろん、繊細な心のあり方だと気づかされる。 国際情勢の中で、必ずしも日の立場は盤石ではない。反日感情をぶつけられる場合も多い。 そこにはやはり「私は日のここが嫌い!」という原因がある。 好きな理由と、嫌われる原因。どちらも直視して、やっとそこから

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    e_tacky 2008/05/16
  • 「私が死ぬと茶は廃れる」三鬼英介: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    副題に「知られざる粋人・金津滋の生涯」とある通り、著者・三鬼英介はお茶に関するを書くための取材で出雲に赴き、金津滋という人物を知る。 小規模な茶の研究会「紅雪会」の中心的存在だ。 博覧強記。四、五千の茶道具を所有、書画、料理をはじめ、何をやらせても玄人裸足。制度化した茶道とは対極にある自由な茶を体現している。 金津へのインタビューを含め、茶を探究する著者に同行している気分にさせてくれる文章が魅力的。 ちなみにタイトルは、千利休晩年の言葉「(私の死後)十年ヲ過ギズ、茶ノ道廃ルベシ」からとられている。

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「デッドライン」建倉圭介: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    日系二世であるミノル・タガワは、ロスアラモスで原爆が開発中であり、しかも日が標的になっていると知る。そして原爆投下前に日政府に敗戦を受諾させようと、日への密航を図る。 一方、機密漏洩を察知した米軍は、ミノルを取り押さえようと追跡を開始。 アラスカ、千島列島と、手に汗握る逃避行が続く。 ミノルの熱意は果たして実を結ぶのか……。 ストーリーの疾走感が心地よい。

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「空飛ぶタイヤ」池井戸潤: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    トレーラーから外れたタイヤが歩道を歩いていた主婦を直撃。死亡事故となる。 メーカーは整備不良が原因と発表し、警察は運送会社の社長・赤松を立件しようとする。 赤松は銀行からも取引を断られ、小学生の息子までもが、いじめの対象にされる。 だが赤松は車両自体に欠陥があったと信じ、名門自動車会社に挑んでいった。 大財閥の内幕を、臨場感たっぷりに描く社会派サスペンスだ。

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「鬼ともののけの文化史」笹間良彦: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    中国では「鬼」と言えば死者の霊魂・亡霊のこと。 このことからも分かる通り、この文字は亡霊の象形だ。 この世から隠れたものだから「隠」という。 では角をはやし、鉄の棒を持つという造形はどこから来たのか。 死者の幽魂を鬼(隠)とする中国の思想とインドの羅刹・夜叉の図像が習合したものと著者である笹間良彦氏は考える。 奈良・平安、動乱期、鎌倉・室町以降と、それぞれの時代の「鬼」「もののけ」の変遷・変化を眺め、その民俗学的な意味を探る。 豊富な図像を見るだけでも楽しい一書。 ブログ内の関連する記事:5件 『歴史にみる「日の色」』中江克己 (2008年03月22日 19時49分)「日歴史をよみなおす」網野善彦 (2007年03月05日 17時42分)「絵で見て楽しむ! 江戸っ子語のイキ・イナセ」笹間良彦 (2006年09月26日 18時46分)「歴史探訪を愉しむ」童門冬二 (2006年09月17

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「覇王の夢」津本陽: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    妥協を許さない現実主義と底知れぬ猜疑心で、天下統一に突き進んでいった織田信長。 世界は大航海時代。 その時代の空気の中で、信長は未曽有の構想を抱く――それは天下統一から海外制覇への道だった。 天正10年6月2日、信長が朝廷へ向かう4時間前に起きた光秀の謀叛。 これがなければ、彼は朝廷に暦の改定を要求し、時間をも支配したかもしれない。 乱世に生きた英雄の夢を描き出す筆致に、読む者の胸まで躍る。

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「ひょうたん」宇江佐真理: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    父の遺した骨董店を賭け事で潰しかけた音松。 将来を誓い合った男に捨てられたお鈴。 そんな二人が寄り添って立て直した古道具屋に、ある日、浪人から一振りの刀が持ち込まれた。 調べてみると、最上大業物の名刀だった。音松は浪人に1両を融通した……。 底抜けにお人よしの夫婦が営む古道具屋を舞台にして、江戸に息づく熱い人情と心意気を、情緒豊かに描いた連作6編。 今の世の中、「人情」に触れてほっと一息つくほど救われた気持ちになる時はない。 是非、一読をお薦めする。

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「UNBOWEDへこたれない~ワンガリ・マータイ自伝」ワンガリ・マータイ: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    まさに「へこたれない女性」――このワンガリ・マータイさんの激動の半世紀を読んで、不屈の精神をもっていることを実感した。 ケニアで部族差別と女性差別に遭い、就職を拒絶される。 政治家だった夫との離婚裁判では、裁判官を批判した罪で投獄された。 木を植えただけで反政府運動家扱いされ、暴漢に殴られ流血。 選挙に立候補すれば、デマと妨害で落選。職も追われ、3人の子供を抱えて路頭に迷うことに。 それでも彼女はへこたれなかった。 「忍耐強く、ねばり強く、そして全力で、絶えず前進する姿勢こそが民主主義」だという確信に貫かれた人生。 その確信は、アメリカ留学中に学んだ公民権運動にもとづいているという。 さらなる原点は、彼女の「母」の存在にさかのぼる。 価値観を娘に押し付けることは一切せず、穏やかに娘を見守った「母」。 「もったいない」という言葉に価値を見いだしたマータイさんの精神的骨格には、飾らない実直な「

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「夜明けの街で」東野圭吾: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    東野圭吾が描く恋愛物って、どんな感じだろう? そんな疑念を持ちつつ手にしたのが書「夜明けの街で」。 建設会社の主任・渡部はと娘がいるごく普通の、しかし小さな幸福を感じている中年男。 その一方で、会社の部下・仲西秋葉と一線を越え、不倫の恋に落ちる。 だが彼女は、時効間近の殺人事件の容疑者だった。 両親は離婚し、母親は自殺。彼女の横浜の実家では、15年前、父の愛人が殺されたのだ。 ずるずると深まっていく二人の関係。 彼女は「時効になったら話したいことがある」と言う。 果たして事件の真相とは? 時に滑稽な中年男の恋愛感情を中心に、巧みな展開で読者を振り回してくれる。こんな東野圭吾も、たまには良いかもしれない。 「夜明けの街で」東野圭吾-関連記事 夜明けの街で - 18 til i die So-net blogお気楽blog東野圭吾「夜明けの街で」と雫井脩介「ビター・ブラッド」 海獺寫眞:東

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「ブルゴーニュ公国の大公たち」ジョゼフ・カルメット: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    14世紀のフランス東辺はヴァロワ家の支配下、4人の傑出した大公が出た。 フィリップ大胆公、ジャン無怖公、フィリップ善良公――彼らは彫刻・建築など中世文化を花開かせた。 婚姻によりネーデルランドの商業圏に手を伸ばした後、英国と同盟し国ルイ11世に対抗する。 だが、シャルル突進公に至って王家との争いに敗れ権勢を失う。 ドイツスペインも巻き込んだ百年戦争の全貌を、克明に描き出す。 歴史書だが、非情にわかりやすい文章で飽きさせません。

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「1プードの塩」小林和男: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    元NHKモスクワ支局長として“奥深い”ロシアの魅力を語り続ける著者。 ゴルバチョフ元ソ連大統領、チェリストのロストロポーヴィッチなどの著名人から官僚、知識人、市井の人々まで、ソ連崩壊からロシア誕生という混乱の中で出会った数十人について愛情を込めてつづる。 その人々の喜びや苦しみの背景にある「国家の姿」も見えてくる。 激動期を懸命に生きた人々の貴重な記録としても読めるエッセイだ。

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    e_tacky 2008/05/15
  • 「キメラの繭」高野裕美子: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    高野裕美子氏が今月10日に逝去されました。 謹んでご冥福をお祈りしつつ、著書である「キメラの繭」のレビューを再掲させていただきます。 2009年冬の東京。 大学のウイルス研究室に勤める立科涼子は、不可解なアレルギー症状で急死した弟の死の原因を究明しようとするが、実験用のマウスに同様の症状が現れる。 餌を作った世界最大のバイオ企業に連絡を取った直後、研究室に何者かが侵入した。 一方、街ではカラスが凶暴化し、通行人を襲い始めた。 二つの異変の間に関係があると見た涼子は、必死に立証に取り組むのだが……。 リアリティーにあふれるサスペンス。 ブログ内の関連する記事:1件 「サイレント・ナイト」高野裕美子 (2006年06月13日 19時13分)

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    e_tacky 2008/05/15
  • 『歴史にみる「日本の色」』中江克己: つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

    書『歴史にみる「日の色」』は、卑弥呼の古代から江戸期まで、日人と色とのかかわりを、興味深いエピソードとともに紹介する。 例えば源平合戦で、源氏は白、平氏は赤の旗を掲げていた。 当時、武士は布を白地のまま使うのが普通だった。何かを書くにも便利だからだ。 その「白」に対して、平氏は敵味方の峻別のため分かりやすい「赤」を用いたらしい。 また、黄色は古代には、中国の影響で、尊い色とされたが、持統天皇の頃には庶民の色になった。そこには、黄の染料が豊富だった事情もあるなど。 「色」に込められたイメージや思いは、時代によって移り変わる。 それを眺めるように読むだけでも歴史の楽しさが感じられる。 ブログ内の関連する記事:5件 「日歴史をよみなおす」網野善彦 (2007年03月05日 17時42分)「鬼ともののけの文化史」笹間良彦 (2007年02月22日 17時46分)「絵で見て楽しむ! 江戸っ

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    e_tacky 2008/05/15