文部科学省がことし8月末、各都道府県の教育委員会などに対して、北朝鮮拉致問題に関する図書館の蔵書を充実させるよう、事務連絡を出していた。 拉致問題は基本的人権に関わる重要なテーマであり、解決が急がれる国政課題だ。国民が理解を深めるための関連書籍や資料が充実すること自体に異論はない。 ただし、それは図書館の主体的な取り組みで実現されるべきだろう。政府や政治家は、権力による介入と受け取られかねない行為は厳に慎まなければならない。 全国の図書館員らでつくる日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」は「知る自由」の保障を掲げ、自らの責任で資料を収集・提供するとうたう。むろん、戦前から戦中にかけ、図書館が国の検閲制度と連動する形で、国民の「知る自由」を妨げた反省に立つ。 だが、この理念は常に危うさにさらされているといえよう。図書館の蔵書を巡ってはこれまでにも、検閲をほうふつとさせる問題が後を絶たな