『どん底の人びと―ロンドン1902 』 ジャック・ロンドン | 考えるための書評集

どん底の人びと―ロンドン1902 (岩波文庫) ジャック・ロンドン ジャック・ロンドン 百年前のロンドンの貧民街の人たちのなまなましい、リアルな姿がうきあがってくる本である。百年前のことがいま、目の前でおこっていることがらのように読めるのが恐ろしい。ロンドン自身の撮影による写真がさらに迫真さをます。本の偉大な貢献というものだ。 ジャック・ロンドンはなぜこのような貧民街潜入ルポのような試みをおこなったのだろうか。かれ自身は貧困のなかで中学を出ると缶詰工場やアザラシ船の水夫として働かなければならない労働者階級の出身であった。18歳のときには『アメリカ浮浪記』に書かれているようなホーボーとよばれる無賃乗車での渡り労働者を経験している。それなのにここでは一転自分は一段上の人間でよそ者であるかのような潜入ルポをおこなっている。イギリスの貧民街はアメリカの労働者にとっても異常で理解できない壁をもってい

[maturi]

困窮生活といえば、アイルランドの極貧生活をえがいたフランク・マコートの『アンジェラの灰』が思い浮かぶが。こんにちの労働者階級のすがたをえがいたのはポール・ウィルスの『ハマータウンの野郎ども』がある。