「だいたい伯爵は意気地がない」 白日夢のような回想を切り裂いたのは、女戦士の姫君アレクサンドラだった。 私は思わず、背の低いむすめを凝視した。 まさかすぐ目の前に立たれるとは、いや、扉の外に人がいるとは思ってもみなかったのだ。 「せっかく気をきかして二人きりにしてあげたのに、今日もすごすご引き返してきちゃうんだ。それでも名にしおう騎士の末裔かな」 己の半分ほどしか生きていない十五歳のむすめに嘲弄されていたが、反論すべきことばさえ見つけられなかった。 彼女は左手にもった私の剣をくるくると玩具のような勢いで回しはじめた。 身にまとうのが革甲冑とはいえ、常に戦装束のむすめが目の前にいることが、私には不思議でしようがない。だが、彼女たちがこの国に来て半月もたつ今、みなはそれに慣れてしまっているようだ。 着飾ればさぞかし美しいだろうと思うのは、私だけではないはずだ。 ところが、彼女は一切の飾りを身に
闇をひらく光 〈新装版〉: 19世紀における照明の歴史 作者: ヴォルフガング・シヴェルブシュ,小川さくえ出版社/メーカー: 法政大学出版局発売日: 2011/12/09メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (10件) を見る 知覚は歴史的に変わるもの。五感が歴史的産物だという学説は、アラン・コルバンを嚆矢として、すでに人口に膾炙した観もある。 『闇をひらく光』は焔から光へと日常的な照明が技術的変革を遂げていくなかで、その変化に戸惑いつつも適応していった19世紀人の視覚の変遷を追っている。火から生まれる明るさから、全面的な光、光の全体性へと至る19世紀の啓蒙的テクノロジーを論じた一冊。 伝統的な照明といえば、蝋燭や暖炉だった。しかし暖かみを湛えた焔の文化はやがて光源から発せられる光が笠を介して辺りを照らすものへと進化していく。19世紀にはガス灯が登場する。劇場や街路のよ
「天皇学」入門ゼミナール 所功 著 従来の「天皇史」から新たな「天皇学」への入門講座!! ■歴代の天皇は皇祖神の子孫と伝えられ、日本史上で政治的にも文化的にも大きな役割を果たしてきた。戦後教育の中で“天皇”という存在への問いは消えてしまったが、“天皇”を論じることなくして日本の歴史はない。 ■歴代天皇の主要な実績を平易に解説し、また最新の研究を補注し、補論では全天皇の略伝を紹介する“決定版の入門書”で、多様な「天皇学」への道を拓く。 玉井義臣の全仕事 あしなが運動六十年(全4巻・別巻一) Ⅲ あしなが育英会の誕生と発展 1994-2024(第2回配本) 玉井義臣 著 生涯を遺児救済に捧げた創始者 交通事故・災害・病気・自死などで親を喪った遺児たちの進学と生活を、街頭募金と寄付金で支える「あしなが運動」を、創始者・玉井義臣の仕事から描く集大成。 交通遺児育英会から「あしなが育英会」を出発させ
ドイツロマン主義の画家カスパー・ダイーフィト・フリードリヒから、抽象表現主義の画家マーク・ロスコまでを、「北方ロマン主義」という系譜の中で位置づけようという本。 崇高の話とか読んでいると、時々言及される本なので、まあ読んでみるかと。 北方ロマン主義における「北方」というのはまあ大体ドイツのことで、フランスないしパリを中心に語られてきた19・20世紀美術史を、パリを回避して組立直すというもの。 フランスの印象派に対する、ドイツの表現主義みたいな対比とパラレルなのかなあとも思ったけど、美術史詳しくないのでよく分からず 北方ロマン主義の伝統 | 現代美術用語辞典ver.2.0を見ると、「ローゼンブラムの議論はそれ自体として十分に説得的なものであるとは言いがたいが、19世紀から20世紀にかけての単線的なモダニズムに対するオルタナティヴな見方を打ち出したという点で稀有なものである」とあり、また序文の
『くにたち人類学研究』 Vol. 5 2010.05.01 1 <論文> 意志による「愛」と意志の限界にある「愛」 ――米国におけるポリアモリー実践の事例から―― 深海 菊絵 要旨 本論の目的は、米国におけるポリアモリー実践の事例から、「愛」や「親密性」に関わ る事象を主題とする 90 年代以降の人類学的研究の分析枠組みを再考し、今後の研究に必 要な視座を提示することである。近年の愛や親密性を主題とする研究は、社会規範との関 連でそれらを論じる傾向が際立っている。これらの研究は、親密な関係が築かれる舞台の 権力構造を明らかにしてきた。しかし、自律的主体が想定されているため、偶発的で予測 不可能な他者との関係性を当事者たちがいかに生きているのか、という点を捉えきれない。 そこで本論では、バトラーの「≪対格≫の私」論、田中の誘惑論を手掛かりに、先行研究 が看過してきた領域に光を当ててみたい
7/12【ソ連を滅ぼした『シベリアの呪い』】では、寒冷地のシベリア開発がソビエト連邦を発展ではなく衰退に導いた、という説を紹介しましたが、ソ連崩壊を論じる際に欠かせないのがエマニュエル・トッドの『最後の転落』です。 最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕 作者: エマニュエル・トッド,石崎晴己,中野茂出版社/メーカー: 藤原書店発売日: 2013/01/25メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (3件) を見る 「シベリアの呪い」そのものではありませんが、人口分散政策が経済的重荷になることを指摘しています。 [p.299~300] ロイ・メドヴェージェフの著作『社会民主主義』の中に、ソ連人がモスクワに居を構えることを妨げる諸規則の概要がみられる。これらの規則の目的は、統制不可能な運動によって政治権力の安定性を危険に陥れることになるかも知れない、都市への大量の人口集中を防ぐこ
世界は名前であふれている。 街ゆく若者が凝視する手のひらサイズの四角い機械には「スマートフォン」、鋭い目つきでゴミをあさる黒い鳥には「カラス」、体毛がほとんどなく出歯のネズミには見たままの「ハダカデバネズミ」という名前がある。これらの名前はもちろん、自然に授けられたものではなく、ヒトによってつけられたものである。名前のないものを見つけることが難しいほどに、ヒトはあらゆるものを分類し、命名してきた。世界を分類し命名することは、ヒトのDNAに組み込まれた本能なのかもしれない。 それではヒトは、この分類し命名する本能を抱えて、どのように世界と対峙してきたのか。人類の誕生以来本能に任せて行っていた分類と命名が、学問へと昇華したのは18世紀。古典物理学がアイザック・ニュートンの『プリンキピア』から始まったように、生物の分類学はカール・リンネの『自然の体系』から始まった。本書はリンネがどのように生物界
遙から ビジネス街にあるリラクゼーションエステに頻繁に通っている。ストレス社会を生き抜くための私なりの努力の一環だ。ストレスが溜まると体調に影響が出る。だが、実際ストレスを根本的に解決する手段などないのが一般的だ。ならば、常に意識的に身体にシグナルを送るのだ。 「ほら。気持ちいいぞ」、と。 “リラックスの蓄積”が、ストレスに負けないための手段だ、と脳科学系の本に書いてあった。 ストレスに対抗できるのはリラックス。強いストレスにはリラックスの蓄積。わかりやすい方程式だ。 おっさんがエステの気持ちよさに目覚めてしまった ビジネス街の立地上、フロアのベッドを仕切るのは厚手のカーテン。そこにアロマとヒーリングが空気を和ませる。裸で紙パンツになり、全身リンパマッサージを受ける。 1時間半、1万5000円。この価格を継続して払える女性は少ない。結果、ビジネス街のエステにはこの価格を払えるある程度の世代
若者に転職の仕方を教えておかないのは日本人社畜化の一環だよなー。おかげで転職にまつわるクソなあれこれも一向に直らん。 さて、君のような場合だが、まず「失業給付を貰おうとする」のはアウトだ。はっきり言って「失業給付なんて貰えない」と思った方がいい。 「自己都合」名目で退職した場合、失業給付が貰えるのは「会社をやめて3か月経ってから」になる。退職後3か月は自腹で生活しなければならない。そこから3か月は給付が受けられるが仕事が決まったらその時点で打ち切りだ。しかし君の手元の実弾が100万円しかないなら、それは失業期間中に溶かしてはいけない。新生活を始めるとなると最初はそれなりに物入りで数十万は要るし、転職先が決まった時点で100万あれば多少余裕はあるが、決まってない状態で100万だと非常に危険だ。 だから君は退職する前に転職先を決める必要がある。 さて、基本的な勝利パターンはこうだ。 今の仕事を
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く